新日本プロレスからスーパーヒーロータイガーマスクが消えた。
僕のプロレス教の教祖様とも言える佐山サトルが消えてしまった。そんな時ザ・コブラが登場した。若いプロレスファンはみんな彼にタイガーマスクの幻影を重ねてしまった。
そこから悲劇がスタートする。彼には責任は全くない。ただ、時代が悪かった。タイミングが悪かった。
ザ・コブラはカルガリーのリングで自由奔放に暴れていたら、きっとコブラから、キングコブラになれたはず。そんなレスラーだった。
タイガーマスク引退後もヒーローを求めた
タイガーマスクが引退しても僕のプロレス熱は収まらなかった。同様に学校の友人たちも意外にプロレスを見ていた。
猪木や藤波、長州の過激なストロングスタイルに魅了され完全に一般大衆の娯楽の一つとしてプロレスが定着していた。
少年ファンたちは絶対的なヒーローを求めていた。仮面ライダー、ウルトラマンに憧れ、アニメのタイガーマスクが現実に現れその代わりになるヒーローを。
僕はテレビの前の特別リングサイドを陣取った。他に観客はいない。
入場するザ・コブラへの期待
謎のマスクマン、ザ・バンビートが入場する。当時は大人の事情は何も知らず純粋に初来日の謎のマスクマンだとワクワクした。
雑誌のバックナンバーなど隅々まで読んでも彼の名前すら出てこない。バンビートは筋骨隆々でプロレスラーとしての迫力がある。正直、期待できると感じた。
そして、新しいスーパーヒーローのザ・コブラの入場だ。僕が彼を神と崇められるかどうかの大切な試合だ。館内には壮大なテーマが流れる。歌が入ってない分、タイガーマスクの入場より大人の雰囲気を感じた。
スモークがたかれた、こんな演出の入場は初めてだ。お祭りのような雰囲気である。なんとたくさん覆面レスラーが担いでいる、みこしに乗ってザ・コブラは入場した。学校の仮装行列に近いものを感じてしまった。
ザ・コブラの正体はジョージ高野
ザ・コブラがリングに立った。彼の正体はジョージ高野だった。プロレスマニアだった僕はすでに彼の存在を雑誌では知っていたし、それなりに有望な若手でマニアの中で知名度もある、期待のホープだった。
メキシカンのレスラーのコスチュームにジャケットを着ている。これが妙に格好悪かった。ヒーローならマントにするとか、メタリックなジャンバーを着るとかの方がいい。
館内からさっそく正体晴らしのヤジがとぶ。仮装行列の入場を見せつけられ、バンビートの様子がおかしい。イライラしているようだ。そしてバンビビートはなんとマスクを外してしまった。たくさんのマスクマンを見てきたが、自らマスクを観客の前で外したのを見るのは初めてである。
おおー!大歓声である。なんと、マスクの下から出てきた素顔は、タイガーマスクの永遠の好敵手、ダイナマイトキッド?であるようだ。
バンビートの正体はデイビーボーイ・スミス
キッドコールも起こるが…よく見るとダイナマイトキッドではなかった。キッドに似ているがその正体はデイビーボーイ・スミスというレスラーだった。
実況でさりげなくデイビーボーイ・スミスの紹介をしてくれる。キッドの従兄弟にあたるという。それにしても似ていた。ファンもキッドの幻影を重ねて見ていた分よけいそう映ったのだろう。
タイガーマスクの代役にはなれないザ・コブラ
試合はスミス=善、コブラ=悪の図式に必然的になってしまった。
スミスの攻撃はキッドを彷彿させ、一発一発の切れがありスピードも速い。一方コブラはタイガーマスクのコピーもする気がなく飄々としている。
コブラは良くいうと長身でスタイルがいい。だがレスラーとしてみると、顔も面長で足も細く弱そうに見える。何をやっても技の重みがない。
いろいろな動きもできるのだがテンポが悪くて試合の流れがカクカクと途切れる。途中、放送を編集してコブラのテーマ曲がながれ、技が決まるシーンばかりを流している。場外ダイブの自爆のシーンもカットされている。
テレビ朝日もコブラを何とかタイガーマスクの代役に作り上げようと必死だが、本人にはその気がない。そうして試合はコブラのフライングラリアットで終わった。
悲劇のヒーロー、ザ・コブラ。この試合を僕はビデオ録画していた。たぶん僕は佐山サトルに代わる新しい教祖様を探していた。試合も何度も見たが、結局、僕はタイガー教のような信者になれなかった。
この試合は新日本プロレスとテレビ朝日による企画倒れの失敗作品、ある意味レアな試合として僕のプロレスビデオコレクションの本棚に飾られた。
その後、ザ・コブラの評価は少しずつ上がり、まあまあ人気のあるポジションまで回復したのは意外だった。ただ会場内を素顔でうろうろするのは勘弁してほしかったですね。
(文・GO)