柔道家はボクサーと戦える? 柔道の動きを活かした打撃技の応用とは

柔道家はボクサーと戦えるのか?

組めば柔道、離れて戦えばボクサーが有利なのは明らか。

格闘技の歴史の中でいうと、打撃の攻防に付き合わずに寝業に持ち込み、マウントポジション(馬乗りの体勢)から一方的に殴るスタイルが90年代に登場。ご存知の通り、グレイシー柔術の戦法ですね。

ただ現在のMMA(総合格闘技)ではいきなり寝業に持ち込むことは困難です。組み技系の選手もある程度打撃に付き合う必要があります。

柔道家であっても打撃は必須。また、MMAの試合に出る予定はないけど打撃もできるようになりたいという柔道経験者の方もいることでしょう。

ここでは柔道経験者がこれまで身に着けてきた動きを活かしながら、打撃技を習得する方法を考えてみます。

柔道家はボクサー相手に打撃勝負はできない?

全員がそうというわけではないのですが、特に重量級の柔道家の人は大体打撃のセンスがありません。

ベタ足で中心線がら空きの、二本足で立ったクマみたいな構えが身についていて、なかなか中心線を隠す半身の構えで爪先立って動く打撃の動きに馴染めないのです。

吉田秀彦みたいにロボコンパンチを振り回していても強い人は強いんですが、それは根性やフィジカルで強いのであって、技術ではありません。

柔道家がボクサーのような打撃のエキスパートと互角に打ち合うことは可能なのでしょうか?

この疑問にヒントを与えてくれる出来事がありました。

別の技にも応用できる柔道の基本動作

先日、私の通っている総合格闘技のジムに柔道家の方が出稽古に来ました。

目的はブラジリアン柔術ということだったのですが、「せっかく来たのだから…」ということで総合格闘技を体験していくことに。

私はその柔道家の方に総合格闘技を教える係を任命されたのですが、彼が興味深いことを言っていました。

「柔道の前回り受け身って、あれ、投げ技にもなるんです。相手を背負ってから前回り受け身をすると綺麗な背負い投げになるんですよね」

言われてみれば確かにその通りです。

柔道の動きの多くは、特定の技のためにだけあるのではなく、応用することで、さまざまな技に発展させることが可能です。打撃技も例外ではありません。

伝統派空手の型と分解の関係を参考に

ひとつの動きに対し、自分でこれを解釈して別の応用技を生み出すという発想は、実は伝統派空手に典型的に見られるものでもあります。話しが横道にそれますが、柔道の技をこれまでとは別の視点でとらえるのに役立つので、少し見ておきましょう。

伝統派空手には型の演武というものがあります。四方八方に敵を想定し、一連の技を決まった順序で繰り出します。型は競技としても行われていますが、もともとは一人で行える鍛錬方法でした。

型の動きの中には、どういうシチュエーションで使う動きなのかが、ひと目見ただけでは分からないものもあります。

型の動きをどう解釈するかがポイントです。同じ動きに対して、ある人は「この技は受け技だ」と言ってみたり、またある人は「顔面への裏拳だ」と言ってみたり。答えがあるわけではありませんが、優れた解釈は、とても自然で納得のいくものであり、それでいて言われなければ気づかないような意外性を持っていたりします。

型を解釈し、実践の動きの中に落とし込むことを「型の分解」といいます。古い沖縄唐手(からて)の世界には、「型は教えても手は教えるな」という戒めがあったそうです。

手(て)というのは型の本当の使い方、分解のことを指します。型はどれだけ知られたところで、それだけではただの演舞なので危険はありませんが、分解となれば話しは別です。使い方を知られてしまえば真似をされたり、対策を立てられたりして自分たちの唐手の優位性が損なわれます。分解こそは、師から弟子へと密かに伝えられる沖縄唐手の秘密だった……、そんな話しを聞いたことがあります。

柔道の動きを打撃に生かす

リングスやUFCで活躍した総合格闘家の高阪剛さんは柔道出身です。

高阪剛さんが言うには、柔道の体落としの足の運びは、前手でフックを打つときのフォームと全く同じとのことでした。この場合、体落としで相手の襟をつり上げる方の手がパンチになります。

このように、もともとは柔道の投げ技の動きだけれど、全く同じ体の使い方で別の技にもなるパターンは何通りもあるはずです。

大外刈りの足の運びを例に考えてみましょう。

  1. 相手の外側に踏み出す。
  2. 相手の後ろに足を差し込みそのままラリアットみたいに投げ飛ばす。

これを入り身の歩法として捉えて、2のときに相手の足を刈らず、引手側の相手の脇の下に潜りながら、軸足を起点にピポットするとアマレスのバックに回る動きになります。

他にも、相手のパンチに合わせて大腰の要領でスイッチしながらフックを合わせたり。

背負い投げで相手の脇下に入れる肘を縦肘の打撃技に見立ててアバラを狙ったり。

実際、相手の片手を柔道の引手の要領で引き寄せながら、そのまま懐に入って肘打ちをアバラに入れる技は中国拳法に良く見られるものです。

このような発想で、出稽古に来た柔道家の方に打撃を指導したところ、とても総合格闘技を初めてやったとは思えないほどいい動きになりました。

本人も、

「相手の動きに合わせて慣れた動きをやるわけだから、とっても楽」

と言っていました。

彼の動きに、柔道家が無理して打撃をやっているという感じはありませんでした。

漫画『グラップラー刃牙』をご存知の方なら伝わると思うのですが、なんだか本部以蔵みたいな動きでしたね。

嘉納治五郎が求めた真の柔道は総合武術?

嘉納治五郎という人物をご存知でしょうか。

忘れられていく日本各地の柔術を蒐集、編纂して、講道館柔道を創始した人物です。

出典は定かではないのですが、この嘉納治五郎、晩年に自分の広めた柔道の試合を観て、このようなことを言ったそうです。

「これは私の目指した柔道ではない。」

後に松濤館を開くことになる船越義珍に空手を柔道の当身部門にしてくれないか打診したり、合気道の演舞を絶賛したり、嘉納治五郎の目指すところは武器術や当て身技を組み込んだ総合武術だったのではないかと推察されます。

柔道の動きを解釈し、柔道の試合の中だけで使える技としてだけでなく、打撃技にも応用していくことは嘉納治五郎が目指した”真の柔道”に近づくことになる、といったら大袈裟でしょうか。

今回は柔道を取り上げましたが、他の格闘技から総合格闘技に転向した人であれば、自分のバックボーンの中にある慣れた動きを応用してみるとよいでしょう。もともとの競技の用法を一旦忘れて、総合格闘技用に新たな応用を考えることで、他の人とは違うオリジナルのファイトスタイルを作れるはずです。

(文・千里三月記)