中邑真輔VS桜庭和志…プロレスのリングで総合格闘技を思わせる攻防

日本のプロレスは10年前くらいから、一昔前のプロレスと大きく変わり、選手は体が引き締まったアスリート体型で、華やかな空中殺法を得意とする選手が増え、DDT、ドラゴンゲートだけでなく、大手の新日本プロレスの興行にも、女性客が増えてきた。

イケメンレスラーを目当てに、プロレス会場に足を運ぶ女子のことを「プ女子」と呼ぶようになったのもこの頃からだ。

女性向けのグッズや、コンテンツも増え、プロレス=暑苦しいというイメージがほぼ消えつつある時代が来た頃であった。

私自身は、プロレスも格闘技も分け隔てなく好きなタイプだが、このころはちょうど、プロレスへの興味が薄くなっていたころ。

ただ、バックグラウンドに格闘技を持ったプロレスラーには興味があり、純粋なプロレスファンの友人が身近にできたため、久しぶりのプロレス生観戦となった。

自分が、新日本プロレスのビッグイベント“イッテンヨン”を見に来る日が来るとは思わなかったが、そんな私のような女性であっても、見に行くことに違和感を感じることはないほど、女性客、ファミリー層も多い、プロレス界にとっては良い時代のはじまりであったと思う。

中邑真輔VS桜庭和志のシングルマッチ

2013年1月、東京ドームで行なわれた、中邑真輔選手VS桜庭和志選手のシングルマッチ。

新日本マットで活躍し、その後は総合格闘技の世界に身を移した柴田勝頼選手とともに、「新日本プロレスにケンカ売りにきました」という桜庭選手の登場の仕方も印象的だった。

ところで、中邑真輔選手が総合格闘技の「和術慧舟會」(わじゅつけいしゅうかい)でも練習をしていたことは、格闘技好きの間では有名。WWEに移籍するなどの華やかなイメージが強いが、実は、柔術の使い手でもある。

対する桜庭和志選手は、言わずと知れたプロレスラーとしてのバックボーンをもちつつ、プライドをはじめとする総合格闘技の世界のカリスマ。

2人ともプロレスラーと格闘家という2つの顔を持つ選手。格闘技好きにとっては夢のようなカードだ。

それは、メインイベントのオカダカズチカ選手VS棚橋弘至選手を超えてしまうような一戦となった。

中邑から桜庭へのオマージュも

新日本プロレスのなかでもスター選手である中邑真輔選手。対して、おそらく中邑選手の世代(当時30代後半)のなかでは、格闘技界のレジェンドである桜庭選手。お互いが、とてもリスペクトしていることが、試合の端々に見られる試合だった。

華やかな技が目立つ新日本マットのなかで、二人の接点である関節技での攻防。じっくりじっくりと進められる試合展開となり、まるで、会話をするかのようだ。じっくりと相手の出方を観察しながらの攻防。それを見つめる観客もそれぞれの選手に感情移入をしながら、他の試合とは明らかに異色の対決を楽しんだ。

やはり、中邑選手のホームでの戦いということもあり、試合の流れとしては、桜庭選手が追い込まれる場面が多く、かなり攻め込まれている。結果としては、新日本マットで現役スター選手であった中邑選手が勝ちとはなったが、試合後のマイクで

一番スゲーのはプロレスなんだよ!!

と中邑選手。

桜庭選手の名言「プロレスラーは強いんです」のオマージュともとれるメッセージに、会場がワーッと盛り上がった。

プロレスというと、演出のひとつとして相手を罵ることも見せ場のひとつではあるが、この試合においては、二人のプロレスと総合格闘技への熱い思いがぶつかり合い、その試合を見た誰もが感情移入した試合だったのではないだろうか。

戦いの場を、新日本プロレスからWWEに移した中邑真輔選手。アメリカの広い会場で華やかにプロレスラーとして登場し、大きな体を使って、海外の選手にも引けをとらない試合を繰り広げ、今やWWEでもスター選手として活躍している。

今思えば、あの時のあの試合は、中邑選手のバックボーンを振り返り、それを観客にも披露した貴重な試合だったのではないだろうか。