私は小学校1年から空手道を始めました。私がやってきた空手道はいわゆる伝統派空手で、特に組手に力を入れてきました。
伝統派空手、カウンターの上段蹴り
私が得意とする技は上段蹴りです。伝統派空手の組手において、上段蹴りは文字通り頭部に対する足技で、「一本」と呼ばれ一気に3点が入るため、これが使えればかなり有利に試合を進めることができます。
そして、なんといっても上段蹴りはとてもダイナミックで、空手を知らない人でも分かりやすい技です。
私がこの上段蹴りを得意技と言い切れるほど使いこなせるようになったのは、中学生の頃です。
特に私が得意とする上段蹴りは普通に自分から繰り出す技ではなく、相手の攻撃に合わせたカウンター攻撃です。
実は、コツをつかんでしまえば簡単かつ楽にできてしまいます。ここが他の技とは違うポイントであり強みでもあります。
カウンターの逆突きがヒントに
カウンターの上段蹴りを生み出すきっかけとなったのは先輩から突きを教えてもらっている時でした。
それは逆突き(構えの姿勢になった時の後ろの手による突き、ボクシングのストレート)を相手の攻撃に合わせて打つという練習でした。
ここで重要になってくるのは足の運び方です。まず、相手が何かしらの攻撃をして前にきたところに反応して、軸足となる前足を斜め前に移動させます。移動したことによって自分は相手のほぼ横に位置することになります。
この移動が上手くいけば、相手にとっては瞬時に横から攻撃されるのでガードしにくく、自分にとっては相手の攻撃を受け流すことができるので安全という、とても理に適ったかたちになります。
この時は、カウンターで逆突きをするという練習をしていたのですが、自分は「蹴りでも使えるじゃん!」と思いました。
それからは自力で蹴りの練習をするようになりました。
相手の攻撃の瞬間を狙う理由
ここで難儀になってくるのは蹴り技は突き技と違ってモーションが大きく相手にばれやすいということです。それが原因で初めの方はなかなか技が決まらずに苦労しました。
どうすれば技が決まるようになるかを考えながら他の人の試合を見ているとあることに気付きました。それは、相手が攻撃をするのに突きを出した瞬間というのは、視界の下の方が自分の腕で見えにくくなっているのです。
その時私は、そうだ、この一瞬を狙えばよいのかと思いました。それからは積極的に練習で技を出していきスキルアップをさせました。
伝統空手の中学生大会に出場
カウンターの上段蹴りの練習を始めて以来初の大会がありました。全国大会にも繋がるこの大会は中学生時代においては県で一番と言っていいほど大きな大会でした。
この時私は中学3年生でこの大会に出るのは今年で最後だったので、とても緊張していました。その大会では、個人戦・団体戦ともに出場しました。
個人戦では一回戦目、二回戦目は緊張のせいか身体が思うように動かず、練習の成果は出すことができなかったですが、何とか勝利し、三回戦目へ進出することができました。
カウンターの上段蹴りで決勝へ
三回戦目の相手は強化指定選手の一人でそこそこ名の知れてる選手でした。試合が開始し、お互い牽制し合いながら0対0のまま見合っていました。
開始から約30秒が経過したとき、チャンスが来ました。お互い少し長めの距離を取っていたところに相手が突きで一気に攻めてきたのです。
その時私には手に取るように相手に突きが見え、練習を思い出し、それに合わせて軸足を斜め前に出し、上段蹴りを出しました。すると防具に足が当たった甲高い音が鳴りました。
綺麗に上段蹴りが決まり3ポイントが入り、そのまま勝利。ここでやっと練習の成果が出せました。
それ以降の試合も強敵が続きながらも、得意の上段蹴りが次々と決まり快勝していきました。そして、なんと決勝まで駒を進めることができました。正直、自分自身はここまで勝ち続けることは予想外でした。
そして、気を張って臨んだ決勝戦。しかし、決勝の相手は自分の苦手な戦い方をするタイプで、自分の技を出すことすらできずに負けてしまいました。結果は準優勝でしたが、2位でも全国大会へ行けるためその喜びも噛み締めつつ、最後の最後で自分の新たな課題が見つかったところでこの大会が終わりました。
強豪校の監督からオファーをもらう
カウンターの上段蹴りがもたらしたものは全国大会への切符と、もう一つありました。
それは、三回戦目に決まった上段蹴りをちょうど強豪の高校の監督が見ていて、その監督が大会後私に「うちの高校に来てくれ。」と声をかけてくださったのです。
その監督は地元ではとても有名な方で、こんな方からオファーをいただけて、なんて光栄なことだろうと思っていました。それだけでなく、この日はそれ以外にもう2校からオファーをもらいました。これらは間違いなく上段蹴りという技のおかげだったと思います。
今思い返してみても、この試合での上段蹴りは私の空手人生で一番完璧に決まったものであり、空手人生を変えた瞬間でもありました。