ロッタンのミドルキックに苦戦した天心…武尊戦は同じにならない理由

那須川天心とロッタン・ジットムアンノンの試合が行われた時タイに在住しており、現地でロッタンの評判をよく耳にしていたので、どのような試合展開になるか注目していた。

天心は、ロッタンと戦う前に同階級(スーパーフェザー級/約59kg)の強豪であるスアキム・PKセンチャイジムとKnock Outの興行で肘ありルールで対戦しており、卓越したディフェンス能力と当て感で5R判定勝ちをしていた。

ロッタン戦はRISEの興行で肘なしのキックボクシングルールである上、スアキムより前に出てくるロッタンはカウンターを得意とする天心にとって相性がいいと考えられ、試合前は天心有利との声が多かった。

ミドルキックで腕を痛めつけられる天心

試合は予想通り前に出るロッタンに対して天心がパンチのカウンターを合わせる展開が続いた。

予想外であったのが、ロッタンのミドルキックを天心が腕に何発も被弾したことだった。4R、5Rにはミドルで腕を痛めつけられた天心のパンチの威力が落ちたように見えた。

パンチはほとんどもらっていないが、ロッタンの圧力で下がらされたことに加え、ミドルをもらい続けたことで、5R終了時点で判定負けでもおかしくない内容であった。

武尊もムエタイのミドルに苦戦

K-1のスーパーフェザー級(60kg)王者の武尊もラジャダムナンスタジアムのフェザー級(約57kg)王者のヨーキッサダー・ユッタチョンブリーと対戦した際にミドルキックを受けて腕に大きなダメージを負っている。

ヨーキッサダーは、ムエタイでは当日計量57kgで戦っており、武尊戦では前日計量60kg契約で実質2階級差のハンディがあったにもかかわらずである。

ムエタイのミドルキックは特別

ムエタイ選手のミドルキックが異なるルールでも対応できるほどの武器になっている理由は、ムエタイの判定の採点基準にあると考える。ムエタイではパンチやローキックはあまりポイントにならず、腹やガードの上から腕を蹴るミドルキックや首相撲からの膝蹴りに高いポイントが与えられる。

ムエタイの判定がミドルキック重視の理由

このような判定基準になっている理由は2つあると考えられる。1つ目はムエタイ選手は月に1回のペースで試合をすることが多く、パンチの打ち合いで倒し倒されをしていたら選手がすぐに壊れてしまうため。

2つ目はムエタイの観客の主な目的はギャンブルであり、ミドルの打ち合いや首相撲からの膝蹴りの攻防では同程度の力量の選手同士では競り合いになる確率が高く、どちらが勝つか最後までわからないスリリングな展開になりやすいためである。

選手は採点基準に沿って勝つための練習するため、必然的にミドルキックと首相撲のに練習時間の大部分が費やされる。タイでムエタイジムの練習風景を見ると、サンドバック打ちではミドルキックが中心であり、パンチはサンドバックの揺れを整える程度にしか打たない選手が多い。

天心が最も苦戦したロッタン戦の背景には、層の厚いムエタイ軽量級の厳しい競争環境で勝ち抜くために磨かれたミドルキックがあったといえる。

天心vs武尊の試合展開はどうなる?

格闘技ファンから対戦を熱望されている天心・武尊戦で、天心・ロッタン戦を引き合いに出して武尊が圧力をかけて優位に試合を展開すると予想する人も多いが、ロッタンと武尊ではキックの精度にかなりの差があるため、同様の展開にはならない可能性が高い。

武尊はサウスポーの村越優汰戦でほとんどキックを当てることができなかったので、サウスポーでディフェンス能力がより高い天心にキックをクリーンヒットすることはできないであろう。

天心・武尊戦は、武尊がパンチ、キックを当てることができずにイライラして強引に前に出てきたところにカウンターを合わせられて武尊が一方的にダメージを受ける展開を予想する。

(文・K-沢井)