MMA(総合格闘技)を始めたばかりの高校生の頃。私はスピードとパンチ力任せのスタイルでした。
初見の敵には強いのですが、ある程度技術のある人がこっちの動きを覚えてくると、堅実にゆっくり対処されて負ける、という問題を抱えていました。
どうやら自分のリズムが単調であることが原因のようでした。
単調なリズムが敗因だった?
『一流のボクサーは、最低でも3つのリズムを持っている』
という言葉をどこかで聞きました。
プロボクシングは10ラウンドの長丁場なので、どれだけスピードのある選手でも、相手もそのうちスピードに慣れてきて対応されてしまうのでしょう。
「最低でも3つのリズム」…それまで考えてもみませんでした。
私のバックボーンは剣道と伝統派空手です。両方とも試合時間が短い上に、頻繁に「待て!」がかかって試合が仕切り直しになります。こうしたルールのもとでは、リズムがワンパターンであることのデメリットを感じにくいのかもしれません。
しかし、総合格闘技では勝手が違います。
私は、相手に「自分のリズムが読まれていた」ことに気が付きました。
最低でも3つのリズムを持って格闘技の攻防をするには、どうすればよいのでしょうか?
なめられると怒る人は単調なリズムだった!
ヒントは意外なところから得られました。
私より一年早くキックボクシングジムに入ったオラオラ系のある先輩は、スパーリング中にこっちの攻撃が強く当たると、必ず強く当ててしまった攻撃と同じ攻撃を、強めに返してくるのです。
ムキになっているからのようでした。
「コレだ!!」
ここに、格闘技におけるリズムの秘密を解く鍵があると直感しました。
多分この先輩は、「ナメられたくない」から格闘技をやっているのです。
だから練習中に後輩が「ナメた攻撃」をしてきたから「ナメられない」ように同じ攻撃を返してくるわけです。
試しに、他のオラついている人たちに強い攻撃を当てても同じ反応が返ってきました。
これは、サルがお互いに毛づくろいをしあう「ミラーリング」と同じ原理です。格闘技は拳で行うコミュニケーションなのでしょう。
性格によって反応やリズムのパターンが異なる
なぜ格闘技をやっているのか、その人の動機を知ることは、相手の行動パターンを知る手がかりになります。
この仮説を実証するため、試しにナメられたくない価値観と関係なさそうなIT系の会社に勤める趣味で格闘技している先輩に強く当ててみました。ミラーリングされませんでしたが、スパーリングが終わった後にやんわり注意されました。
次に、そんなに器用ではないけれど、コツコツと努力を続けるはじめの一歩タイプの先輩にも強く当ててみました。しかし、この人は気付いているのかいないのか分からない反応で、こちらが何をしても自分の練習したコンビネーションをひたすら繰り返すだけでした。
意外だったのが元いじめられっ子のケース。分類としては、オラオラ系の正反対になるはずですが…。
私は、いじめられっ子から格闘技を始めていじめっ子を見返した、というエピソードを事あるごとに言うぬらぬら系の先輩に強く当ててみました。すると、元いじめられっ子の先輩はミラーリングして強く返してきたのです!
コンプレックスをバネにしているタイプも攻撃を強く返してくるということが分かりました。
つまりオラオラとぬらぬらは表面上は違うタイプに見えますが、「ナメる/ナメられる」の世界観で格闘技をしている点では同じタイプなわけです。
私はこのように、その人の性格、さらには格闘技に対するモチベーションの違いによって反応が異なることを発見しました。
いくつかのパターンはあるものの、人は自分の性格や動機によって、いつも同じような反応を見せてしまうものなのです!
同じ性格や動機で闘う限り、攻防のリズムは単調にならざるをえません。
単調なリズムから脱却するにはどうしればよいのでしょうか?
試合中にリズムを変える方法
攻防のリズムはその人が無意識にとる反応によって作られています。そのため、「リズムを変えよう」と努力しても練習では上手くいくかもしれませんが、極度の緊張を強いられる試合になれば、本来の自分のリズムに戻ってしまうでしょう。
そこで私が考えた解決策は、性格・動機・行動パターンからなる人格を意識的に切り替え、そのことによってリズムを変える、というものです。
いくつもの人格をあらかじめ用意しておきます。ここでは分かりやすく、ドラゴンボールのキャラクターを例に説明してみましょう。
▼悟空の場合
- 地球生まれのサイヤ人
- 戦うプロセス自体を楽しむ
- 相手が強いほど、追い詰められるほどワクワクしてしまう
- 相手の得意技を引き出した上でそれを上回ろうと心掛ける
といった性格、動機、行動パターンが見て取れます。
▼ベジータの場合
- サイヤ人の王子
- ナメられたくないオラオラ系
- 戦いの実績を自信にしている
- 相手からマウントを取れるときに喜びを見い出す
といった性格、動機、行動パターンが見て取れます。
試合中に、これらのキャラクターに成りきり、それを切り替えながら戦うことで、攻防のリズムに変化をつけることができます。
例えば相手がラッシュをかけてきてる最中に悟空に成り切って、
「オメェ強えなぁ、オラワクワクすっぞ!」
と相手にリズムを合わせて攻撃を返す。
あるいは、ベジータに成りきって、
「クソッタレー」って感じで相手の攻撃を全部さばいて一撃返すのか。
フリーザみたいに「こ、このオレによくもキズを(中略)絶対に許さんぞーー!!」
と文脈無視して頭突きする勢いで特攻するのか。
攻撃を返す技術は同じでもリズムは変ってきますよね。
キャラクターになりきることによってリズムを切り替えるわけです。
手詰まりになったら、ピッコロさんになって状況の解説を試みれば、冷静に打開策を見つけられるでしょう。
私はドラゴンボールで切り替えましたが、もちろんドラゴンボールである必要はありません。
グラップラー刃牙でも鬼滅の刃でもテニスの王子様でも、バトル漫画ならだいたい使えます。明確なメンタルセットを想像しやすいように、キャラの立っている作品を選ぶとよいでしょう。
漫画のキャラに成りきるメリット
私はこの方法で試合中にリズムを切り替えるようになってから、相手に行動パターンを読まれないようになりました。
行動原理がコロコロ変わるわけですから、反応を予測しづらいことこの上ないと思います。少なくともジムではプロも含めて滅多に負けなくなりました。
加えてこの方法にはさらに有益な効果がありました。
試合の際に緊張しなくなったのです。
相手が大真面目な顔をして向かってくる中、こっちは頭の中でドラゴンボールごっこをしているのです。笑えますよね。
試合に負けてしまったら? クリリンにドラゴンボール集めて貰えば復活できると思えば大したことではありません。
(文・千里三月記)