ヒョードル式テイクダウンの技術とは?ロシアンフックの意外な使い方

総合格闘技を始めた当初、私の通っていたジムの練習体系は、打撃はボクシングとキックボクシング、投げ技はレスリング、寝技はブラジリアン柔術と個別の時間を設けて練習して、週に2回のMMAの時間で総合ルールのスパーリングをする、という流れでした。

総合格闘技は覚えることが多く、なかなか総合格闘技自体の練習に十分に時間を割けません。

レスリングでテイクダウンの練習はしていたものの、打撃の攻防の中で実際にどういう風にテイクダウンをとったらいいのか悩んでしまいました。

自分は打撃出身なので、打撃から組みの姿勢に入る方法について研究したのですが、その過程でとても使える技術を発見しました。

それは、ヒョードルが時折見せるテイクダウンへの流れでした。

ヒョードルのロシアンフック

私はヒョードルの打撃に憧れて総合を始めたのですが、そのヒョードルの得意なパンチがロシアンフックです。そして、よくよく見てみると、ヒョードルはこのロシアンフックを相手に組みつくときにも巧みに使っていました。

ロシアンフックとは、ヒョードルやイゴール・ボブチャンチンといったロシア人選手が愛用したパンチの打ち方です。

ボクシングでの基本のフックが腰の回転で打つのに対して、ロシアンフックは肩で打ちます。体が正面を向いたまま打てるロシアンフックはタックルを合わせられたときにも反応しやすいです。

ロシアンフックはストレートパンチの拳をひねる動きを大袈裟にした動きなので、敵が離れていくとストレートパンチの軌道で当たります。近づいて来ると敵の後ろから手の甲で殴る形になるのでやはり当たります。この点が打つ時に腕の角度を決めてから打つボクシング式のフックとの違いです。

ヒョードルは接近戦でロシアンフックを乱打して相手の姿勢を固めてから組み付いて投げる動きをよくしていました。繋ぎとしてのロシアンフックです。その方法については後ほど詳しく取り上げます。

ボブチャンチンのロシアンフック

ロシアンフックのもう一人の名手がイゴール・ボブチャンチンです。前身がキックボクサーということもあり、ボブチャンチンは組み技への繋ぎではなく、あくまでも打撃のフィニッシュブローとしてロシアンフックを使っていました。

イゴール・ボブチャンチンvsフランシスコ・ブエノ戦では、イゴールボブチャンチンが左右のロシアンフックの連打でKOを奪います。

そのとき、はじめの左フックで右斜め前に入りながらステップインしており、相手のガードの隙間を抜けてヒットしています。続く2発目は右斜めにポジショニングしたお陰で横から当たってます。

ボブチャンチンのように遠間から一発で倒すロシアンフックというのは、このように斜め前に出ながら打ちます。

理由は、体が正面を向いたままになるロシアンフックの防御面を補う目的と、軌道がストレートに近く敵のガードの横から巻いて当てるのが難しいためです。

剣道の「巻き上げ」で組み付く方法

ヒョードルは大振りのパンチ、投げてからのパウンド、サッカーボールキックなど豪快な闘い方が持ち味。圧倒的なフィジカルの強さで勝っているようにも見えます。

しかし、ヒョードルはサンボ仕込みの腰の強さやパワーだけで相手を投げているわけではなく、どうやって組むかの戦術を持っていたと思います。そういう見方ができたのは、私に剣道経験があったからかもしれません。

剣道で「巻き上げ」という技があるのをご存知でしょうか?

相手の竹刀を自分の竹刀で巻いて弾き飛ばす技法のことです。実はこれ、素手でも使えます。

まずストレートパンチの要領で腕を前に伸ばしてます。

そして伸ばしたまま窓ガラスを拭くように円を描いてみてください。これは映画「ベストキッド」で主人公が何度もやらされていた動きです。

これが巻き上げの素手での動きになります。

次に友達に構えてもらって、この巻き上げの動きで相手の腕に絡んでみましょう。

勝手に腕が巻きついて、相手の体勢を崩せませんか?

以上が素手による巻き上げの基本の型になります。

中間距離の打撃の攻防の最中に相手と自分の前手が触れ合うようなときも、巻き上げを使えば相手の腕が取れるようになります。そして巻き上げは伸ばした手を回しながら近づくだけなので、パンチと同じように使用できます。

例えば、ワンツーのツーで巻き上げで組み付いたり、近付こうとする敵の顔の前に前手でブラインドしておいて、その手をどうにかしようと敵が前手に接触してきたところを巻き上げて捕えたり。

ジャブの差し合いの局面では相手は顔面防御に意識が向いているので結構簡単に取れたりします。取れなくてもパンチを一発スカしただけなのと同じリスクなので、タックルなどに比べて安全です。

組み技への繋ぎとしてのロシアンフック

ロシアンフックを遠間から強打すると、敵はガードを上げて対応せざるをえません。

普通の打撃だったらガードされて終わりなのですが、ヒョードルの場合はそのまま相手のガードを巻き上げることで、打撃ガードで硬直している相手に組み付いて崩していました。

つまり、ロシアンフックを打撃から組技への繋ぎとして使っていたのです。

この方法はカウンターをもらうリスクがあるタックルに比べて安全で、恐怖心を感じずに試すことができます。

また、組み技系出身でまだ打撃に自信のない人であれば、正攻法の打撃の攻防に付き合うよりも、ロシアンフック連打から組みつく方が相手は嫌かも知れません。

ロシアンフックは、組技が苦手なストライカー、あるいは打撃が苦手なグラップラーをちょっと怖い存在にしてくれる技だと言えるでしょう。

(文・千里三月記)