1960~70年、高度成長期の日本では後に「スポ根」と呼ばれるジャンルが大人気だった。
「巨人の星」のように、主人公が血のにじむような特訓で成長し、勝利をつかむ物語だ。
この時代は、フィクションの中だけでなく現実のトレーニングでも、今とは比べ物にならない根性が求められたようだ。
* * *
私がボクシングをしていた1960年代の中頃から60年代の終わり頃にかけては、今では考えられないような練習方法がありました。
練習前後に水を飲んではダメ
まず、練習開始の3時間前ぐらいから水を飲まないこと。
そして練習が終わって1時間してから水分をとっても良い、という暗黙のルールがありました。
これは、水分をこまめに取らなくてはダメだという現在の指導方針とは真逆の事を当時はやっていたのです
聞くところによると、これは何もボクシングにかかわらず、マラソンのような有酸素系のスポーツでも水を飲んだらダメと言われていたそうです。
恐らくは、水を練習前に飲むとボデーが弱くなるとか、すぐスタミナが無くなって、満足な練習が出来ないという迷信から来ていたのでしょう。
私は1980年代に縁あってあるジムのトレーナーのアルバイトをやりましたが、プロのボクサー達が結構こまめに水でうがいした時にゴックンと飲むのを見て、ビックリしました。恐らくそれから30年以上経っている現在では疲労回復効果のあるスポーツドリンクの開発もあり、もっと頻繁に飲んでいるのでしょう。
この他にもウサギ跳びに代表されるような旧式なトレーニング方法はずいぶん前から止めておりますが、私より以前の世代の方は効果があると信じて行っていたようです。
メディシンボールはいらない?腹筋の鍛え方
ここからはボクシングに関わる練習法をいくつか紹介します。
まず、仰向けになって、両腕で後頭部を持ち上げ、両足を床から浮かせた状態で、トレーナーにお腹を踏んでもらう、という練習方法。これは効きます。
よくメディシンボール(腹筋を鍛えるのにも使われる中に物が詰まった丸い皮のボール)でトレーナーにお腹をたたいてもらっているシーンを見ますが、それより、この「足踏みつけ」の方が内部まで鍛えられて遥かに効果があると思います。
みぞおち辺りをトレーナーに踏みつけられて、おならが無意識に出た事が何度かありました。勿論、腹筋台での腹筋を充分にした後のトレーニングです。私も現役時代はお腹が6つ位にボコボコに割れて筋肉だけでしたが、現在は当時の面影もありません。
顎を強くするトレーニング
ボクサーは頭を打たれることが避けられません。そこで顎を強くする為によくやっていた練習があります。
リングのコーナーポストに逆立ちして、足だけポストのロープに架け、両手を離して、頭と額辺りだけでグリグリと顔を前後左右に動かすのです。そうすることによって当然首が鍛えられ太くなります。相手のパンチを食った時にも強靭な首でダメージを少しでも減らす目的です。
この他にもダンベルをタオルで縛って輪をつくり、それをくわえて上下に何十回か上げ下げして顎と首を鍛えます。この顎の鍛え方は現在でも多くのボクサーが実践しています。
ボクサーとキックボクサーの違い
トレーナー時代の事ですが(1980年代初頭)、私が最初に入ったジムではキックボクサーも一緒に練習しており、戸惑う事がしばしばありました。キックの選手は足技が中心ですから、パンチは余り練習しないのかと思ったのですが、「先生、ミットを持ってください」との依頼が結構多かったですね。
キックミットは持てないので、パンチングミットですが、パンチを打つタイミングがボクサーとは違うのです。
足技に注意を払わなくてはなりませんから、彼らはどうしてもやや反り気味で打ってきます。そして、パンチとのコンビネーションでは足を私に当たらないように空中に蹴りを入れたりします。
正直、パンチに体重があまり乗っていないので、普段ボクサーのパンチを受け慣れている私としては手打ちの感があり、楽でした。
でもある時、コンビネーションの練習でミットを持っていたら、うっかりローキックが私の左足の脛辺りに当たりました。蹴ったキックボクサーは当然平謝りでしたが、蹴られた私は立ったままそこから動けませんでした。息が出来ないのです。
K-1全盛期の頃は、元ボクサーが引退後にキックボクサーと対戦し、ローキックで蹴り倒されてノックアウト負けするシーンを何度も見ました。
見ている方としては何故足が痛いのぐらい我慢出来ないのか?と思われるかもしれません。これは経験してみないと分からないと思いますが、実際に蹴られると、痛いというのを通り越して呼吸が出来ないのです。その一件以来、キックボクサーとのミット打ちはなるべく避けるようにしていました。