私は大学生のとき中学剣道部のOBの方たちと稽古会を結成して定期的に稽古をしていました。
OBの方たちは私よりも1回りも年齢が離れており、いくら仲間といえども打突が外れてしまったらどうしようと遠慮をして稽古に参加していた記憶があります。
その最たる例が「突き」の稽古です。
危険な剣道の突き…OBに遠慮の気持ちも
突きはとても危険で外れてしまうと相手に怪我をさせてしまう恐れがあります。
当時私は学生でしたが、OBの方たちは社会人で怪我をさせて仕事に支障が出たらいけないと思い力を抜いて突きを打っていました。
そんな私の遠慮に気付いた先輩方は「思いっきり打ってこい」と、私に発破をかけてくれていました。
それでも自分の突きの精度に自信が持てない私は、両手で打つ諸手突きではなく外れても比較的怪我のしづらい片手突きを先輩方に打っていました。
私が片手突きを好んで稽古したのは安全性だけが理由ではありませんでした。そして、OBの先輩方との片手突き稽古は後に意外な展開を生むことになります。
華のある技「片手突き」
剣道が大好きな私はひまな時間があると動画サイトで剣道の試合動画を観ることが日課になっていました。
そんなとき自分と同い年の学生が片手突きを試合で決めている動画を観て、「自分も打てるようになりたい」と思い片手突きを極めようと決意しました。
片手突きは文字通り片手で打つ突きで難易度が高く、決まったら周囲から歓声が沸く技です。そんな華のある技に魅了されたのです。
OBの先輩との片手突き稽古
最初は全く当たらないどころか、フォームでさえばらばらで見るに堪えない状態でした。
自身の片手突きのフォームと自分と同い年の学生が決めた突きの動画を見比べて、フォームを修正する稽古の日々。
そんな私の姿を見てOBの方たちも「もっと左手を伸ばせ」「右手を自分の垂れに付けなさい」などアドバイスをくれるようになりました。
片手突きを練習し始めて半年ほど経ったとき、OBの方たちと団体戦の試合に出る機会に恵まれました。いちばん若手の私は試合展開を勢いづける先鋒として試合に出ることが決まりました。
チームの雰囲気を一変させた片手突き
あと1回勝てば表彰台というところまで勝ち上がった私たち。しかし、試合相手が優勝候補ということもあり私たちのチームの雰囲気は「ここまで勝てただけでも良かった」と、試合をする前から負けが決まっているかのような暗いものでした。
こんなときこそ先鋒の自分が雰囲気を盛り上げなくてはいけないと思い、試合が始まるやいなや果敢に打ち込んでいきました。
しかし、さすが優勝候補といわれるだけあってなかなか旗が上がりません。試合時間も残りわずか、お互い技を出し切って、「ここしかない」と今まで練習してきた片手突きを相手に向かって打ちました。
すると赤旗が3本上がり満場一致で突きを決めることができたのです。
その光景に先輩方は興奮し、チームの雰囲気は「ぜったい勝つ」という流れに変わり、優勝候補を倒して先輩方と表彰台に立つことができました。
大会が終わると先輩方が「おまえのおかげで勝つことができた」「ありがとう」と労いと感謝の言葉を掛けてくださりました。
しかし、私からしてみれば先輩方が片手突き習得のために力を貸してくれたおかげで先鋒戦に勝てたと思うのです。
チームを勢い付けた片手突きはチームみんなで作り上げ、結果的にそれが決め手となって勝利につながった。これは今後の自身の剣道人生でも誇れる出来事です。
片手突きを決めるコツ
片手突きのポイントは、
- 中心を崩さない
- 右手と左手を入れ替えるように左腕を伸ばす
- 竹刀から離した右腕は中段の構え時の左手と正反対になるように収める
となります。
「突く」というよりも相手の突き垂れに剣先を「置く」意識で打つことをおすすめします。
打つ機会としては闇雲に打つのではなく、相手が油断している遠い間合いから打つと比較的決めやすいのではないかと個人的には思います。
突きを打った後すぐに中段の構えに戻さないと外れたときに相手から反撃を食らうので注意が必要な技です。
(文・わんけん)