小学生剣士が見え見えの出小手狙いで面で一本を取れる理由

私は小学校4年生で剣道を始めました。故郷は全国の中でも剣道が盛んな地域で、当時は近隣の13道場で約1,000人の小中学生が日々稽古を積んでいました。

私が所属していた道場にも70名ほどの部員がおり、遅れて剣道を始めた不利もあって、レギュラーどころか3軍、4軍にすら選ばれませんでした。

やはりポジションを取るためには上級生や男子にも勝たなくてはいけません。当時の私の体格は年齢相応でしたが上級生や男子と比べると背は低く、手は短く、力(打突)は弱く、フィジカルの差を技で埋める必要があり、得意技を会得する決意をしました。

小学生剣士が小手技を選ぶ理由

剣道には68手の技があると、現代剣道の祖と言われる幕末の剣豪 北辰一刀流の千葉周作先生は書き記されています。

しかし、中学生までは突き技は禁止されていますので、有効打突部位は面、胴、小手の3カ所で技の数は50手となります。私は迷わず小手技に決めました。

実は中学2年生までは胴技が満足にできませんでしたし、背の高い相手に面技では不利だからです。また小手技の多くは相手との間合いが近いので長い手は必要ありませんし、面や胴のような強い打突でなくても一本が取りやすいからです。

そして全部で12手ある小手技の中から出小手を選びました。

出小手を決める2つの要点

出小手が特性に合っていると思ったからです。出小手は相手が竹刀を上げようとした瞬間に小手を打つ技です。小学生レベルでのこの技の要点は大きく2つあり、相手の手元が上がる瞬間の見極めと、小さく早く、そして鋭く相手の懐へ向かって踏み込むことです。

この2つを体得するために日々のあらゆる稽古の時はもちろん、家や学校でイメージトレーニング、シャドートレーニングを繰り返しました。

しかし、1ヶ月たっても3ヶ月たっても一向に成果がでません。上級生に勝つどころか後輩にも負ける始末です。後から思い返すと出小手に執着しすぎて、剣道が小さくなっていたのだと思います。

見え見えの出小手狙いで面で一本を取れる理由

「先輩の出小手狙いは見え見えですよ。そこにさえ注意していれば一本取られる気がしないですね」

私が悩みに悩んでいる時にある後輩がこう言いました。カチンときましたが「そうであれば徹底的に狙ってやろう!」と開き直るきっかけになり、「打ってこい!狙ってるぞ!」と、あからさまに表に出してみることにしました。

すると思いがけないことに面で一本が取りやすくなったのです。相手の心理が「あー、また出小手狙ってる」から「ヤバい、出小手を狙われている!」へ変化したと考えられます。

そうなると以前より多くの意識が小手に注がれ、無意識に手元が下がり気味になり力が入ることで、面に隙が生まれ反応も遅くなり一本取られやすくなります。

面が決まると出小手も決まる!

更に3本勝負の試合で1本目をこのような形で先取されると、早く取り返そうと焦って打ってきます。そこを出小手で仕留める。私の勝ちパターンの完成です。

これがきっかけで剣道の全てに自信がつき、昇級審査では2級も飛び級合格するほど飛躍的に実力が向上し、部内では大将を任され、地域でも一目置かれる剣士へ成長することができました。

後日談ですが、当時ご指導いただいていた先生方は、もちろん私の試みや努力はお分かりになっていらっしゃいましたが、あえて見守り、単なる1つの技の習得ではなく、このように剣道人生を共にできる得意技として修得して欲しかったと話してくださいました。

ここで私の剣道が開花しなければ、恐らく人生のどこかで剣道を止めていたことでしょう。当時から50歳を過ぎた現在まで途切れることなく稽古を続ける中で、剣道シーンによってこの技にも変化を加えてきました。

七段を目指し、未だ現役として試合に臨む私にとって、これからも剣道の理念である「剣の修練による人間形成の道」をこの技と共に歩んで行きたいと思います。