大学の全学剣道部に所属し、稽古に取り組んでいる。
3年前の春、県内1位の進学校で勉強に励み、1年間の浪人を経て、念願の女子大生になった。
いつも腕に痣のある女子大生になんかなりたくないと、小学生で始めた剣道もここでおさらばして、週に1回サークルでバレーボールをするくらいの可愛らしいお姉さんになると意気込んでの入学だった。
しかし、私は結局、大学でも4年間剣道をしている。
剣道部の先輩に誘われ、お手並み拝見くらいの気持ちで道場に行ったことが、華の女子大生ライフの終わり、汗だく痣だらけの日々の始まりだった。
狭い剣道場の端でお客様のように扱われながら、剣道をやっている人を間近で見ていると、自分も混ざりたいと思ってしまうものなのだ。
面があるから生きる出小手
もともと長年剣道を続けているわりに試合で勝ち上がることがあまりなく、人数が足りないのでレギュラーの選手ではありながらも、大会に出場するよりも稽古することが楽しいタイプの部員だった。
そんな中、大学生になりやっと試合が楽しく感じるようになったのは、小手が使える技になったからだ。
私の秘密の得意技は出小手。一本を取れる面を持っていると、この出小手が生きてくる。
相面で一本とれることはよくあることだったが、面に跳ぶときほど力を込めず相手をかわすようにして体をさばき、相手を抜いて出小手を決める。その快感が剣道にまた新たに面白さを増やしてくれた。
私がこの技を身に着けたのは、先輩からのアドバイスがきっかけだった。
「試合中、あと一本返さなければチームの負けが決定するという場面での戦い方を考えろ」
当時の私には非常に難しいアドバイスだった。
ピンチな時に一本決められるならそんな状況になってないわ、とすら思っていた。
しかし、そんな試合が終わりに近づいて双方に互いの剣風が分かってきた状況だからこそ使える技があるのだ。
私の勝ちパターンは相手を相面に飛ばせること。そこを面で勝負するのがいつもの流れだった。
このように、面が得意だったからこそ、相手に面を打ってくるだろうと思わせることができ、その結果、小手を打ちやすい面を打ってこさせることができるのだ。この技を習得したおかげで、大会で副将を務めたときにしっかり試合を繋いで副将の役割を果たすことができた。
出小手を警戒させない試合運び
出小手を一本にするポイントは、相手の手元を上手く浮かせること。
小手を決めるためには、打突の強さやスピードよりも、タイミングが重要で、小手を打ちやすい状況にもっていくことが必要だと考えている。
つまり、出小手を決めるには相手に面を打たせることが大切なのだ。これを実行するには試合の4分間を攻略して、相手に自分が思いっきり飛んでくる選手であることを認識させる必要がある。
始めから小手を頻繁に打ち、相手にいつ小手を取られるか分からないと警戒させていては、隙をつくることができない。
自分には向いていないと思う人もいるだろうが、そんなことはない。
特に私は、物凄く俊敏に動けるわけでも相手を力で崩して打ち込めるわけでもなかった。そういう人は頭を使って相手を動かし、隙を突くことで自分の得意技が一つ作れるはずである。
私がここで言いたい事は、自分の力を発揮できる方法を見つけることが大事だということ。私は先輩の言葉をきっかけに頭を使って戦う剣道にシフトし、得意技「出小手」を身につけることができた。
(文・moe)