剣道の稽古量の差を埋める「相手の竹刀の裏からの巻き落とし」の技術

大学に進学したものの、金銭面や時間の問題で大学の剣道部に入部することが出来ませんでした。

しかし、剣道を辞めることは考えられませんでした。

そこで剣道連盟が主催している稽古会に個人で参加して剣道を続けていく事を決めました。

剣道の稽古会で見た高齢剣士の技

部活動のように出席に強制力が無い稽古会では参加する、しないも自由。

学業やアルバイトで週2回ある稽古に満足に参加できない日々が続いた私は、たまに稽古に参加することが出来ても惰性で剣道をしていました。あれだけ持っていた剣道への情熱を失いかけていたのです。

そんなとき稽古会に参加していた、ある警察官の技に目を奪われました。

それが後の私の得意技になる「相手の竹刀の裏からの巻き落とし」です。

その警察官の方は60歳を過ぎているいわゆる高齢剣士であるにもかかわらず、私と同年代の若手剣士の竹刀をいとも簡単に巻き落としていたのです。

巻き落としで稽古量の差を埋めたい

若い剣士の剣道のスタイルの代表例としてがむしゃらに打ってくるスタイルがあります。

そんな若手剣士の鼻っ柱を折る力強い、かつ美しい技に私は魅了されたのです。

「これなら大学生剣士に通用する」

「稽古量に差があっても技術で相手を圧倒できる」

そう考えた私は早速、技の研究に着手しました。

インターネットで「剣道 巻き落とし」と調べて出てくる記事にひたすら目を通して知識を集め、脳裏に焼き付いた警察官の巻き落としの光景を思い浮かべながら稽古会に参加して技を実践・研磨する日々が続きました。

自分の体重の運用が課題に

体格が大きく、他の剣士に比べて体重が重い私にとって巻き落としはいかに相手の竹刀に自分の体重を乗せられるかが肝です。

巻き落としは力強く見えて実は大事なのは腕力ではなく、自身の体重の運用なのだと気付かされました。

こうして課題を得た私は、剣道に対する姿勢を今までのように言われたことをただする「考えない剣道」から、自分で研究する「考える剣道」へと発展させることができました。

巻き落としを決める3つのポイント

巻き落としのポイントはいかに相手の竹刀に自分の体重を乗せられるかが大切です。

  1. 大きく前に右足を前に出す
  2. 相手の竹刀の根元に裏から自分の竹刀を乗せる
  3. 左足の引き付けと同時に自分の竹刀で相手の竹刀を上から下に落とす

この3つが基本です。

試合がこう着状態になり、こちらの技を出し切ったと見せかけたときに決まる確率が高いと思います。意表を突く技なので多用するものではありません。

稽古量でまさる大学生との試合

大学の卒業が迫った冬、部活動に所属する現役大学生剣士が参加する大会に出場する機会に恵まれました。

1回戦、2回戦と勝ち進んでいくごとに体力を消耗する私を尻目に大学生剣士は徐々に調子を上げていきます。絶対的な稽古量の差が現れ始めたのです。

ベスト4という入賞を決める試合で私はすでに満身創痍でした。

相手はそんな私の体力の消耗に気付いており、試合開始と共に激しく打ち込んできます。

「相手に負けじと打ち返すにも身体が付いてこない」

「息が続かない」

など動きのキレが悪い私を相手は畳み掛けにきました。

練習してきた「相手の竹刀の裏からの巻き落とし」

試合も延長に入り、相手が勝負を決めに前に出てきたそのときです。相手が前に出た瞬間に合わせて今まで練習してきた「相手の竹刀の裏からの巻き落とし」が決まったのです。

竹刀を落とされた相手選手は何が起こったのかわからず一瞬動きが止まりました。その隙を見逃さず私は面を決めることが出来ました。力ではなく技術による勝利です。

周囲の観覧席から拍手が起きました。剣道をやっていて良かったと思えた瞬間でした。

その次の試合では負けてしまったものの、私は現役大学生剣士に混ざって表彰されることが出来ました。

剣道の技術の向上だけでなく、環境に屈せず自分ができる範囲で考えて行動すれば結果は出るのだと実感できました。

(文・わんけん)