全中3位の剣道スター選手への嫉妬と依存…大将で感じたプレッシャー

私の所属している剣道部は、関東大会を目標に日々稽古に取り組んでいました。

同級生には全中3位で国体選手として試合に出て全国ベスト4に入ったスーパースターと言われているM子がいました。M子は入学してすぐに大将として試合に出て、私たちチームを勝利に導いてくれていました。

M子が大将である限り、私たちがつなげることさえできれば勝てると思っていました。

剣道スター選手への嫉妬と依存

中学校の時から名前の知られていたM子は、どんな時でも高い評価を受けていました。

剣道の団体戦は5人。この他2人の控え選手がいます。団体戦である以上、1人で勝つなんてことはありません。

たとえ私たち前4人が必死で勝ちにつなげても、評価されるのはM子だけでした。普段の稽古もM子だけ時別扱いを受け、私たちの頑張りは何も認められていないと思っていました。

高校2年生でM子は県で優勝して、3年生の最後の試合にも期待されていました。いろいろな人に褒められ、評価されるM子に嫉妬心はもちろんありました。

しかし試合になれば、大将戦に回せば大丈夫だろうと思っていました。ずっと2年間M子に任せていた私たちでしたが、あと少しで3年生になるという2年生の2月のことでした。

エースの突然の大怪我

普段の稽古で、先生は付きっきりでM子の相手をしていました。その時の掛かり稽古でM子が倒れました。「足が痛いのはわかるけど、どこが痛いのか分からない」と言って足をおさえていました。

そのまま救急車で運ばれて、アキレス腱が切れていると診断されました。剣道において一番恐れられている怪我はアキレス腱断裂です。復帰には半年かかると言われました。怪我をしたのは2月、本大会は5月です。誰もが、この先の試合、どうなるのだろうかと不安になりました。

勝ちを期待されることのプレッシャー

その日以降、私が大将を務めることになりました。M子がアキレス腱断裂をしてから、「K高は終わった」「シードも守れない」などたくさん言われました。悔しかったです。

私たちはM子に頼りすぎていたのは事実でした。先生も保護者も周りの学校もM子ばかり評価をして私たちのことを見てくれていないと思っていました。

しかし実際は、見てもらえていなかったのではなく、見られようとしていなかったことに気が付きました。それにM子も大切なチームの仲間です。怪我をしたからと言って、見捨てることなどできませんでした。

M子の代わりに大将として試合に出て、私たちだけでも強くなれるということを証明しようと思いました。大将を務めていくと、大将の重みを感じました。大将としての意地がどれほど大切か、M子の背負っていたものがどれほどのものだったのかやっと気が付きました。

M子は強いと言われて、強くいないといけなかったのだと知りました。

私は代わりの大将じゃない

M子のいない、私たちの目指していた本大会となりました。私は、私の実力で大将が務まるのか、みんなの想いを背負うことができるのかと不安になりました。

そんな時にチームの1人にこう言われたのです。

「あなたはM子の代わりの大将じゃない。今はあなたがこの学校の大将なんだって思ってるよ。だから、私たちのことも信じてね。」

その言葉を聞いて、一人で戦おうとしていたのは自分であることに気が付きました。

私たちはM子なしで夢をかなえました。一度もかなえられていなかった関東大会の夢を、私たちの力でかなえたのです。私たちには私たちを信じあえるだけの信頼がありました。もちろん、M子も一緒に。

M子がアキレス腱を断裂してしまったのは、私たちが与え続けていたプレッシャーのせいだったと思います。

強いM子がうらやましかった。でも、越そうとはしてこなかった。一人で前を歩こうとしてくれていたM子は私のあこがれです。

周りの目なんか気にせず一人一人が主役だと思えていれば、M子だけに頼らず試合ができていたはずです。私の大将を信じてくれた仲間がいる、それ以上に何も必要なかったのに欲張りすぎていました。

ずっと上を目指してきたM子がけがをした傷みを何一つ分かろうとしなかった。期待されているプレッシャーを解消する実力をつけようとしなかった。相手の痛みを知ることで初めて自分の弱さを知ることができました。

スポーツを通じて、心の成長を、自分との向き合い方の成長をしていきたいと思うことができました。