プロレス観戦歴も5年を超え、全日本プロレスの中継も見るようになった。昭和50年代に僕が夢中になったのは、やはり仮面貴族ミル・マスカラスだった。
華麗なマスク、ビルドアップされた体型、そして代名詞の空中殺法。また、入場テーマ「スカイハイ」の大ヒット。
プロレス雑誌の紙面でいつも彼の写真を眺めていたり、授業中はいつもノートの片隅にマスクのイラストなどを描いていた。
しかしプロレスマニアになり、プロレスの仕組みを理解し、数多くの世界の選手を見れば見るほど彼の評価が変わっていった。ここまで評価が変わったレスラーはミル・マスカラスだけだった。
僕の神様的存在だった、初代タイガーマスクの最大のライバルの小林邦明とミル・マスカラスの対戦を振り返ってみよう。
ミル・マスカラスvs小林邦明
試合はIWA世界ヘビー級選手権試合。子供の頃はわからなかったが、当時、IWAという団体はすでになくマスカラスが個人の所有物として勝手に防衛していた。
ある意味ではガラクタとも思えるベルトに小林邦明が挑戦した。小林は佐山タイガーとの死闘や三沢タイガーとの対決で脂がのっている30歳。
一方、マスカラスは40代半ば。身体の張りもピーク時よりはかなり落ちている。体型もほぼ同じくらいだ。会場人気は五分五分だがオーバーマスクを投げる瞬間は、やはり会場は興奮の坩堝になる。
そしてゴングがなった。地味な力の攻防からのスタート。小林のバックからのチキンウイングをパワーで切り返しサーフボードを決めるマスカラス。その後もグラウンドの攻防が続く。
小林邦明のマスク剥ぎ!
両者ストレスのたまる展開で場外戦へ流れ込む。小林は椅子でマスカラスを滅多打ち、リングイン後もコーナーに逆さ釣りしキックの乱れ撃ち。マスカラスのプライドをズタズタに引き裂く。
そしてマスカラスをグラウンドコブラに決め、小林の代名詞のマスク剥ぎだ。小林のマスク剥ぎは必ず会場が盛り上がる。マスカラスは佐山タイガーと違って、素顔が知れ渡っていないため、さらに会場から歓声が沸く。
小林邦明戦のドタバタ感
怒りの頂点に達したマスカラスの反撃だ。マシンガンパンチを繰り返し、伝家の宝刀フライングクロスアタックだ。だが二発目はかわす小林。そして得意の回し蹴りでマスカラスを場外へ落とし、トぺ攻撃。空中戦でも完全に小林の方が切れがいい。
小林のリングインで館内は大歓声。しかしマスカラスは小林のタックルをかわし、逆にリング上からプランチャー。試合はドタバタ感が強く流れが悪い。リング上の展開も技が決まらず再度、場外へ転落。
場外鉄柱攻撃の末、全日いつもの両者リングアウト。小林がマスカラスと引き分けた。
プロレスマニアがミル・マスカラスから卒業する理由
仮面貴族ミル・マスカラスは世界のアイドルレスラーと言われた選手だ。だが、プロレスファンからマニアになるとマスカラスから皆、卒業していく。
プライドが高く、相手の技を受けない、プライドの塊。どんどんマスカラスの来日が減り、来るたび格下との対戦が増えてくる。そんな落ち目を決定づけた試合だった。
なお、この対戦に対して小林邦明氏が自身のブログでコメントしていた。
「学生時代から憧れていた選手と対戦できて嬉しかったですが僕とは試合スタイルが違うため名勝負とはなりませんでした。」
ミル・マスカラスは対戦相手としてはやりにくい相手のようだ。良い試合を見せれなければファンも離れていってしまう。実際、過去にジャンボ鶴田と名勝負を繰り返したマスカラスも、日本での扱いは下がっていった。
(文・GO)