井上尚弥が世界に認知された瞬間!オマール・ナルバエスとの対戦

アマチュアボクシングでならし、史上はじめて高校7冠のタイトルを獲得した井上尚弥というボクサーがいるという噂は、ボクシングファンは当たり前の情報として知っていました。

2012年にデビューし、翌2013年には後の世界王者、田口良一を降して4戦目で日本王者となり、次の5戦目ではOPBF東洋太平洋王座決定戦を制し、東洋太平洋の王者に。

そして6戦目でメキシコのWBC世界ライトフライ級王者、アドリアン・エルナンデスを降し、見事世界チャンピオンになりました。

その後の初防衛戦では減量苦の影響からか精彩を欠くものの、タイのサマートレック・ゴーキャットジムを11RTKOに仕留め、初防衛に成功します。

ここまで一気に駆け足で上がってきた井上尚弥でしたが、当初につけられた「怪物」というニックネームにはまだまだ名前負けしている状態でした。その理由は、コンディションを整えるということが難しく、王座獲得試合では足が攣り、初防衛戦では拳を痛めてしまう、そんな不安な部分がありました。

井上尚弥がライトフライ級からスーパーフライ級に2階級アップ

井上尚弥が、ライトフライ級王座を返上し、次に狙ったのはスーパーフライ級の王座でした。ライトフライ級とスーパーフライ級の間には、フライ級という階級がありますが、それを一つとばして、2階級のアップ。

48.97kg以下に設定されているライトフライ級から、52.16kg以下のスーパーフライ級へのアップ、しかもたかだかキャリア7戦のボクサーの階級アップは、普通に考えれば無謀な挑戦。しかし、ポテンシャルを高く秘める井上尚弥なら、何かを起こしてくれるのではないか、という期待を持つことはできました。

井上尚弥vsオマール・ナルバエス

井上尚弥の相手は、オマール・ナルバエス。当時43勝(23KO)1敗2分という戦績で、WBO世界スーパーフライ級の王座はなんと12度目の防衛戦。

11度以上防衛している日本人世界王者といえば、長い歴史の中でも具志堅用高(13)、山中慎介(12)、内山高志(11)のたった3人。ナルバエスの強さが解ります。

井上にとっては少なくとも苦戦は必至、もしかするとキャリアの差でごまかされ、敗北もあり得る。

最初は右、残り3度は左でダウンを奪う井上尚弥

ゴングが鳴り、井上は開始早々、強い右ストレートをナルバエスの固いガードの上から叩きつけます。アマチュアキャリアも含め、20年間ダウン経験がないという王者ナルバエスは、なんとこの右でダウン。立ち上がったナルバエスに、左フックでダウンを追加。

2R、サウスポー・ナルバエスの右フックをかわし、左フックを痛打してダウンを追加。立ち上がってきたナルバエスに、無慈悲な左ボディ。ナルバエスは、もう立てない。

初回、最初の右をナルバエスの額に当ててしまい、右拳を痛めたという井上でしたが、残り3度のダウンは左で演出してみせました。

井上尚弥が世界に認知された瞬間

11度の王座防衛、その長いキャリアの中で1敗(相手はノニト・ドネア)しかしていない、ダウン経験もない王者を4度倒して圧倒した井上尚弥。会場で見ていても、興奮するというようなレベルを通り越してその強さに引いてしまいました。

ライトフライ級のパフォーマンスは何だったのか、と疑うほど、パワーに満ち溢れたスーパーフライ級の井上の圧巻のパフォーマンス。

世界的に有名で、評価の高いオマール・ナルバエスを衝撃的なKOで切って落としたその姿は、またたく間に世界中を駆け巡る事になりました。

後日、テレビ東京「THE怪物アスリート」に出演した井上尚弥は、最初にダウンを奪った右パンチについてこう語っています。

「この倒した瞬間がゾーン。1秒にコマが何コマもあるような。過去最高のパフォーマンスができた試合」

井上尚弥のキャリアで最も衝撃的な一戦は?

その後はスーパーフライ級で相手がいなくなる程無双し、バンタム級では階級アップ早々にWBSSを制覇、そして先日ラスベガスデビュー。

それでも尚、あのナルバエス戦を超える衝撃には出会えていません。

井上にはまだライバルがいないと感じています。「井上尚弥といえど、勝てないかもしれない」と思えるような相手は、先日ラスベガスで戦ったジェイソン・マロニーでも、レジェンド、ノニト・ドネアでも、エマニュエル・ロドリゲスでも、ファン・カルロス・パヤノでもありません。

今のところ、キャリアを振り返って見た時に、最も衝撃的な一戦は、このオマール・ナルバエス戦だと思うのです。既にこの一戦からは約6年。また井上の評価を上げるような、衝撃的なマッチメイクが見たいものですね。