合気道は体技が基本技にして150本、応用技を加えると3000以上とも万を超えるともいわれます。そして、その習得は極めて困難とされます。
なぜなら、個々の技数が多く、すべてを習得するのに年数が非常にかかるからです。
一方、個々の技を支える原理原則に関しては、数はずっと少なくなります。
合気道の技で投げるには「崩し」が必要
高校生の私は強くなりたい一心で合気道に取り組みましたが、なかなか合気道が上達しません。
今思えば非常にばかばかしいのですが、高校生の頃の私は組技系格闘技の絶対必要条件である「崩し」を知らなかったのです。これではいつまでたっても相手を力ではなく技で投げ飛ばせるはずありません。
合気道における崩し、それは一教技を習得することで学ぶことができます。そして、この崩しは、同じく組み技系格闘技である柔道やレスリングとの大きな違いでもあります。
合気道の特長、柔道との違い
柔道であれば多くの人がほぼ正確にそれがどのような武道なのかをイメージすることができるでしょう。合気道はといえば、名前だけ周知されており、いまだにどんな格闘技なのかを知っている人は少ないかと思います。
そこで、崩しのテーマに入る前に、合気道の技法体系を簡単にご説明します。
合気道は古流柔術をベースにした格闘技で、柔道とは兄弟といえます。ただし、柔道は組み合った状態から始められる格闘技であるのに対して、合気道は相手とは一定の距離があり、それを「一足一刀の間合い」などと称します。
このことから合気道は、剣術の理を体術に応用した武術、などという方もいます。
合気道の「呼吸投げ」とは
合気道の技法体系はおおむね相手の動きに合わせてこちらも動き、その相手方のバランスを崩すことで投げる、といわれます。このような技法を合気道では「呼吸投げ」と称します。そして、合気道の技法の九割は、呼吸投げの名称がついています。
では、呼吸投げ以外の技法はどのようなものかというと小手返しや天地投げといったものがあります。そのなかでも一教から四教までの技法群は、数字が名称についており、なにか暗示的です。
一教とは読んで字の通り、一番目の教え、といえます。技術的には単なる肘押さえです。ただ、単純な技だから、初心者でも稽古しやすいから、という理由で一番目の技というわけではないのです。
合気道の一教が示す独特な「崩し」
一教は、呼吸投げとは異なり単純に肘を押さえる技です。そして、柔道でいう崩しは相手の襟を掴んで自分の方へ引き寄せることで相手のバランスを崩しますが、合気道では相手の腕関節を操作することで相手のバランスを崩しているのです。このことは柔道やレスリングとの違いを生み出してもいます。
合気道の一教、肘押さえは相手を自分の内側へ引き寄せるのではなく、相手を自分とは逆の方向へと向きを変える、言い換えれば遠くへ放り投げる動作になっています。
同じ組技系格闘技と言っても、柔道やレスリングと合気道では雰囲気が全く違うはずです。端的にいえば、柔道やレスリングはお互いが前傾姿勢であり、引っ張り合う動作が主であるのに対して、合気道では一教の動作が典型的に示しているように、相手を自分の方へ引き寄せるのではなく、遠くへ放り投げる動作なのです。
合気道は相手を引き寄せてバランスを崩して投げるタイプの技術ではありません。合気道に固有の崩しの技法が一教に含まれているのならば、「一番目の教え」という名称に納得がいきます。組技系のセオリーである崩しを、合気道では一教という技の反復練習を通じて学んでいるわけです。
このことに気づいてから、私はこの技の練習のときに1つだけ気をつけるようにしました。それはなにかというと、相手がわずかでもバランスが不安定になったかどうかの点です。それさえ出来ていれば肘押さえが相手に効いたかは二の次になりました。
みなさんも合気道の技の練習をするとき、相手に関節の痛みを与えれたかどうかではなく、このバランスの不安定さ、崩せたかどうかに注意を向ければ、合気道の技術が飛躍的に伸びると思います。
(文・トリエラ)