2005年大晦日PRIDEライト級GP決勝戦は五味孝典vs桜井マッハ速人による日本人頂上決戦となった。
PRIDE世界王者をかけた1戦は木口道場同門対決
23歳にして修斗ウェルター級王者となった五味はPRIDE参戦以降、破竹の10連勝を成し遂げ、無敗を誇っていた。
日本人離れした圧倒的な打撃力と当て勘でKO率80%を叩き出し、数多くの外国人ファイターをKOで沈めてきた。
対する野生のカリスマ、桜井マッハ速人は五味よりも前に修斗のベルトを20歳前半で獲得し、軽量級という新たなジャンルの人気を率いてきたパイオニアであった。
PRIDE参戦以降は自身の適性階級以上での試合で結果に恵まれなかったが、適性階級のライト級へ転向後は本来の力を発揮し、ライト級GPの決勝まで登り詰めた。
本来の勢いを取り戻したマッハのポテンシャルは五味にとっては超えなければならない壁でもあった。
新エース五味の勢いと軽量級ブームの火付け人でもあるベテラン、マッハによる試合は日本人初のPRIDE世界王者誕生をかけた1戦。そして、互いにレスリング名門の木口道場出身であることから同門対決でもあった。
五味孝典vs桜井マッハ速人の試合展開
上下のステップワークを刻む五味とドッシリと構えたマッハの動き。
五味はマッハとの打撃圏内を調整しながらステップを刻んでいる様に見える。開始早々、五味がマッハのミドルキックに合わせた右フックで飛び込み、マッハの顔面へ当てる。
打撃の速さにマッハは驚いた様子だった。五味は積極的に距離を縮め、打撃を見舞っていく様子が伺える。
対するマッハは五味の打撃スピードに面食らっている様であった。ベテランのマッハも五味の圧力に押されまいとカウンターを何発か当てていくが、五味の勢いは止まらない。
ようやくマッハも五味の打撃スピードに若干目が慣れてきたようだ。両者は中間距離での間合いをとっている。この距離は飛び込んでくる五味にとってやや有利な距離だ。
マッハは内側へのインローで蹴りのカットをしていない五味へのダメージ蓄積を狙っている。互いの打撃が交錯する中マッハが五味を掴み、柔道投げを試みるが五味にバックを許してしまう。
五味は前戦の川尻戦でもこの体制からバックチョークで一本勝ちしていた。その為、マッハは警戒し、顎を引くが五味はバックからの打撃を見舞う。
マッハが頭部のディフェンスに入ると、バックチョークを狙う五味。五味の徹底した攻撃でマッハがやや苦しい展開になる。立ち上がろうとするマッハに何発も五味のバックからの打撃が襲いかかる。
やっとのことで立ち上がることに成功したマッハであったが五味の打撃を何発も受けてしまったダメージで既に足下がふらつき、立っているのがやっとの状態だ。
五味はチャンスを逃さずに左ストレート、右フックを当てたところでマッハが前から崩れ落ちた。そこで、レフェリーが試合を止めた。
先輩マッハにエース五味が圧倒的なKO勝利を飾り、PRIDEライト級初代王者に輝いた瞬間であった。
新旧エース対決を制した五味孝典の強さ
五味vsマッハの1戦は新旧エース対決として世代交代を大きく表した一戦だった。
五味の衝撃的KO勝利は天下無双を世に知らしめた瞬間だった。当時の五味隆典は圧倒的強さのゾーンに突入していた。
現在の国内MMAでも当時の五味の強さに匹敵する存在はいないのではないかと思う程だ。
PRIDE無き後の現在の国内メジャー格闘技団体はRIZINであるがライト級で日本人は通用しない風潮が出来上がりつつある。
当時はライト級以下の階級が国内ではメジャーではなかったこともあり、ライト級の日本人層が充実していた。
この黄金期の時代を時折思い出す中で五味隆典の存在はかなり大きい。五味のファイトスタイルは全く相手を恐れずに本能的に相手をKOしていくスタイルであった。
狩りの様に相手を伺い一気に止めをさすことができる日本人格闘家は近年では五味や山本KID徳郁くらいしか思い浮かばない。
MMA技術も変わりつつある現MMAで当時の五味が通用するのかどうかは正直わからない。しかしながら、五味程の殺傷能力のある打撃を持つファイターもいないだろう。五味の並外れた強さはそれくらいの影響力であった。
(文・Totty)