新日本プロレスに初代タイガーマスクがデビューして1年が経った。
当時、日本中がタイガーマスクブームで僕は中学2年生、プロレスに興味のないクラスメイトもタイガーマスクの試合だけは見ていた。
プロレス会場内にはちびっこが増え、中学生がちびっこに該当するかはわかないが僕もその一人だった。高校生の兄もその日は朝から騒いでいた。高校生でもブラックタイガーは気になる様子で、夜はテレビの前の特別リングサイドを陣取った。
興味のない弟と父は立見席で居間をうろうろしていた。
正体不明のライバル・ブラックタイガーの登場
タイガーマスクの前にアメリカやメキシコからたくさんの刺客が現れた。当時最強のライバルは間違いなくダイナマイトキッドだった。
僕はタイガーマスクの好試合を期待するより、タイガーマスクがいつも負けないことを祈っていた。弱そうな相手だと安心したり、タッグマッチのパートナーが弱そうだとハラハラしていた。
そして彼は現れた。新聞のワールドプロレスリングに書かれていたのは、「タイガーマスクvsブラックタイガー」。
ブラックタイガーはアニメの終盤にも登場した虎の穴からの刺客の極悪レスラーである。
僕は当時、週刊少年サンデーで連載されていたマンガ、プロレススーパースター列伝で何となく、タイガーマスクの正体は佐山サトルではないかと疑っていた。だがブラックタイガーの情報は皆無であった。
タイガーマスクvsブラックタイガー
リング上に暗闇の虎、ブラックタイガーが現れた。タイガーマスクのネガフィルムのようなコスチュームだ。
腰に手を当て仁王立ちする暗闇の虎に不気味さを感じた。僕のイメージではアニメのブラックタイガー、もしくは、インドの狂虎タイガー・ジェット・シンのように凶器を振り回し暴れる姿を想像していた。
そしてチャンピオンタイガーマスクが登場し、二人の虎が睨みあった。僕がタイガーマスクの試合を観戦して、デビュー戦以来の緊張感が走った。
ブラックタイガーの攻撃はダイナマイトキッドのような鋭角的な切れ味はないが、ラフファイトの中に上手さが見えた。パンチにエルボー、クロー攻撃にラクダ固め。グラウンドでもテクニックを見せつけた。
そしてなんと、場外にもトぺスイシーダーを放った。タイガーマスクは劣勢であったが、フライングクロスアタックやローリングソバットで反撃し好試合になってきた。
ブラックタイガーがタイガーマスクのボディプレスを自爆に誘う。「強い!」の一言だ。しかしタイガーも負けてはいない、必殺の切り札ジャーマンスープレックス。これで決まると思った瞬間、ブラックタイガーは、バックをとっているタイガーの股間を蹴り上げてカット。
今では当たり前のプレイだが、初めて見たかわし方だった。必殺の原爆固めも失敗に終わり、タイガーマスクは大苦戦。技の失敗や、股間を蹴られるタイガーマスクはあまり見たことがなかった。
こうなると目には目を、歯には歯をだ!タイガーマスクもラフファイトに走る。ブラックタイガーをアトミックドロップの体勢から、股間をロープに打ちつけた。こんなタイガーは見たことがなかった。
その後、場外へ両者は転落して、リングアウトのゴングが鳴らされた。もし、この試合に判定があったなら、ブラックタイガーの勝ちである。黄金の虎が暗闇の虎にプライドをズタズタにされた14分であった。
ブラックタイガーの正体はマーク・ロコ
僕は、負けなくて良かったと安堵のため息だ。タイガーマスクに勝ちを求めることが出来ない内容であった。僕の中のヒーロー、アイドル、タイガーマスク像に亀裂が入った。そして、「今度試合したら絶対負ける」と思えた。それくらいブラックタイガーの強さが目立った。
その後の情報で、ブラックタイガーの正体がサミー・リー時代の佐山サトルの最大のライバル、ローラーボール・マーク・ロコと知った。
佐山サトルはタイガーマスクとなる前、ブルース・リーの弟子というふれこみの東洋人レスラー、サミー・リーとして活躍。イギリスでの人気はすさまじかったそうだ。サミー・リーvsマーク・ロコのタイトルマッチを目前に控える中、佐山サトルはタイガーマスクとして日本のリングに上がるため急遽帰国したのだという。
サミー・リーvsマーク・ロコの対戦がお互いマスクマンとなったタイガーマスクvsブラックタイガーの形で実現したわけだ。本当にお互い手の内を知り尽くした攻防だった。ブラックタイガーが強いのもうなづける。
(文・GO)