長身女子が小学生空手の全国大会で上段蹴りを決めるまで

空手を始めたきっかけは喘息治療。

幼いころから喘息持ち。体調はよく崩し、体力がないためマラソン大会はいつも最下位。そんな私を見て母が勧めてくれた習い事が「空手」でした。

喘息治療のために空手を始める

なぜ喘息治療のために空手を選んだのか。

その理由は空手独自の呼吸法が、喘息治療に良いとされているからです。逆腹式呼吸といわれ、丹田呼吸のことです。

鼻からゆっくりと息を吸いお腹がへこませ、はいた時に膨らませます。しっかりと空気を吸ってはくことにより、内臓やインナーマッスルが鍛えられ、喘息予防に良いとされています。

このことを母はニュースで知り「これだ!」とピンときたそうです。

私は「新しいことを始められる!」という嬉しさから早速、通っていた小学校の体育館で行われている練習を見に行きました。

白い道着に身を包み、ピンと張りつめた空気の中で行われている練習を見て背筋が伸びたことを今でも覚えています。

見学をしていると休憩に入り、その時に白髪のおじさんがこちらにやってきました。その人が今の私の恩師です。口数が少なく怖い人だと思い緊張している私の頭を、ポンとたたきながら、ニッコリと笑いかけてくれました。

目の奥にある優しさに、私も思わず緊張がほぐれました。次回の練習から参加したいと願い出て、その日から私は黒帯を目指して練習を始めました。

長身を生かして上段蹴り

空手を習い始めて3年が経つ頃、私の身長は1年間に10センチ伸びるほど成長しました。同じ学年の男の子よりも背が高く、ありがたいことに組手では有利な体型でした。

腕の長さをいかせるよう、いつも試合では上段突きを繰り出していました。そんな私を見て、恩師は「上段蹴りも得意技にできるよう練習したらいい」と勧めてくれました。

しかしここで問題が。私は柔軟性が全くなく、むしろ身体が固い。そのため脚が相手の頭まで上がらず、蹴りを入れる前にポイントを取られるという大失態。

恩師もさすがに笑っていましたが、恥ずかしいやら情けないやら。悔しさをばねに練習に取り組むようになりました。

柔軟性とスピードが大切

私はまず取り掛かったのは柔軟性を高めること。練習に行く前、自分の家の畳のある部屋でストレッチ。股関節や足首をしっかり伸ばすことを意識しました。

上段蹴りを決めるのは何といってもスピード。相手に「次、上段蹴りがくるかもしれない」と思われてはいけません。

相手が気付いた時にはもうポイントが入っている。そんな状態がベストです。自分の脚の甲を最短ルートで相手の耳まで持っていけるよう、何度もシミュレーションしました。

かまえて後ろにある足首に長めのゴムをひっかけて圧力をかけた状態で正面に蹴るという、スピードを出せるよう独自の練習方法を編み出しました。道場では恩師に、家での練習時は親に引っ張ってもらいながら、両足30回を何セットも行いました。

上段蹴りを決めるタイミング

上段蹴りは1本決めると3ポイント入る大技です。できれば何本も決めたいところですが、失敗すると大惨事になりかねませんので、見極めが大切だと思います。

私は絶対に負けられない相手ほど、試合開始直後に上段蹴りをするようにしていました。しかしいきなり上段蹴りを狙う選手はなかなかいなかったため、その後はよく警戒されてしましました。

全国大会で上段蹴りが決まる!

空手を習い始めて4年が経ったとき、初めて全国大会に出場しました。選ばれたのは組手です。

恩師と家族と練習してきた集大成をみんなに見てもらいたいと張り切っていました。今まで見たことのない広い武道館に多数のコート。

初めての私は会場の広さと人の多さに圧倒されていましたが、恩師に背中を叩かれ気合を入れなおしてもらい、気持ちを入れ替えました。

名前を呼ばれ、丁寧に礼をし、いざコートに立つと自然と冷静になることができました。周りの声が聞こえないくらいに集中。

しかし、両者なかなかポイントが入らずだらだらとした時間が過ぎていました。「ひとつひとつ丁寧に焦らず」と、自分に言い聞かせ、今だ!と思う瞬間に上段蹴り!スパーンと決まったのです。

周りの歓声に泣きそうになるほど震えたことを今でも鮮明に覚えています。

私に空手を勧めてくれた母。私を強く優しく指導してくださった恩師。毎日練習に付き合ってくれた家族がいないと、このような貴重な経験はできなかったはず。

今ではすっかり喘息も治り、健康な日々を送れていることに感謝しています

(文・大倉あや)