小柄な体格を生かした接近戦!硬式空手で身に着けたゼロ距離の蹴り

高校1年生だった私はプロを目指すべく部活はせず学校が終わると道場へ直接向かう生活を送っていました。

私が通っていた拳心会という空手道場は硬式空手といって組技、寝技、肘、頭突き以外は認められています。

大会では体重別で分けられず年齢で分けられトーナメントを勝ち進まなければなりません。

大体私と同学年のトーナメントでは40人前後エントリーされるのですが私は160cm52kgとダントツで小柄です。

体格差のある選手の上からの突きやダッキングした際の蹴り上げ、膝蹴りで毎回顔を腫らしながらなかなか勝てず、「相手に当てることもできないのか…」と悔しい日々が続きました。

ボクサーの友人にマイクタイソンの動画を見せられる

道場内でも毎日立てなくなる程ボコボコにされアイツはまたダメだろうなという声にも耐え、しかもトーナメントまで1カ月を切っておりどうしたものかと悩んでいる時のことです。

ボクシングをしていて全国で優勝経験のある幼なじみの友人が、ある選手の動画を見せてくれました。

その選手とは近ごろエキシビションマッチの噂もある、あの伝説のマイク・タイソンでした。

ヘビー級では小柄なマイク・タイソンと大会の中で1番小柄な私が被って見えました。マイクタイソンの圧倒的なディフェンス力、瞬発力、懐に入った時の足腰から連動される攻撃力を見てこれだ!と思いました。

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小柄な体格を生かせる接近戦に必要なもの

マイクタイソンのように懐に飛び込み、接近戦に持ち込めば大きな選手は機動力が下がり、反対に自分の機動力は上がると考えました。

懐に飛び込めてその限られたスペース相手に効く技を出すには瞬発力、スピード、爆発力が必要だと思いトレーニングに励みました。

日常生活の中でダッシュ力を鍛える

私が通っていた学校は家から歩くと2時間ほどかかる場所にある為ほとんどの生徒は交通機関を使ったり自転車通学か多かったのですが、私は朝5時半に起きカバンの中に2リットルのペットボトルと制服を詰めてジャージでランニングをして毎朝登校しました。

そして学校に着くとボクシング部の練習に朝は混ぜてもらっていました。

ボクシング部の顧問の先生から踏みこむダッシュ力は、ふくらはぎと足の指の付け根が大事だとアドバイスを頂きました。

歩く度に、足の指の付け根で地面を蹴って進むイメージを忘れずに、階段も爪先で上り下りすることを心がけて普段の生活の動作の中にトレーニングを織り交ぜました。

ダッシュをする時も日常生活を送る際も常に土踏まずからかかとにかけた部分は浮かせていました。

足腰の鍛錬の成果

2週間程でふくらはぎの筋肉と踏み込む力が付いたような気がして50m走を走ってみたところ、7秒台から6秒台までタイムが縮まり効果を実感しました。

1カ月も続けると相手の初期動作と同じタイミングで懐に飛び込める瞬発力がつきました。

2カ月続けると足腰がしっかりとしてくるので飛び込んだ後自分の距離で指の付け根から足首→ふくらはぎ→太もも→腰→腕を連動させたボディやフックが打てるようになりました。

硬式空手で身に着けたゼロ距離の蹴り

技術面ではボクシングエリートの友人に協力してもらいました。

友人にグローブを付けてもらい本気のスピードでパンチを打ってきてもらいます。私はそのパンチを避けて懐に飛び込む練習を繰り返します。全国レベルのボクサーのスピードはこんな早いのか!と毎日涙目で飛び込んでいました。

そこで身に付けたのが、相手の攻撃を避け懐に飛び込み身体がくっつく程密着した状態で出す、ゼロ距離からのボディへの中段蹴り(状況に応じては膝蹴り)でした。マイクタイソンは飛び込んでからパンチを打ちますが、蹴り技ありの硬式空手なので蹴りを有効に使うことにしました。

なおキックボクシングルールだと接近したらクリンチして首相撲になることが多いと思いますが、硬式空手でクリンチは禁止です。ですのでクリンチ無しでゼロ距離からボディを蹴る技を磨きました。

体格で上回る相手に中段蹴りが決まる

大会まで2週間を切った頃、道場内で試合形式の組み手があり僕の相手は180cm程ある選手でした。これまで彼には一度も勝ったことがありません。

試合が始まると長い手足から突きや蹴りが繰り出されます。

恐い気持ちはあるのですが相手の動きが全て見えて自分が今相手にとってどこに位置しているのかも冷静に判断できました。以前は余裕が無く考えられなかった事も考えられるようになっていました。

あれ?見える。飛び込めた! 不思議な感覚でした。

相手が右フックのモーションに入ったのが見えたと同時にボディがガラ空きなのが目に入りました。ボディに私の中段蹴りが入り頭ひとつ以上高いところにあった相手の顔が私と同じ高さまで下がってきて、「く」の字になってその場に膝をつきました。練習なのでここで「止め」がかかりました。

道場内騒然としていました。「あいつが勝ったのか?」「あの蹴りは何だ?」私自身も驚いていました。

ボクサーのパンチに目が慣れていたのか、どんな突きや蹴りに合わせても飛び込めるようになっていました。

ゼロ距離の蹴りで試合でも一本勝ち!

同学年で40人程がエントリーする試合当日。私は極度の緊張しいなので試合が始まり高い位置から拳が降ってきたとき「ヤバイ!恐い!」と思いながらも咄嗟に踏み込むと目の前に相手の体がありました。

懐に入れた!と思うと同時に相手のボディへ膝蹴りを出してみると相手はその場にダウンして起き上がる事が出来なくなりました。この一本勝ちが私の初勝利でした。

足腰を徹底して鍛えていたおかげで、短い距離でも相手に効く蹴りが出せたのだと思います。

結果は3位でしたが自信もつき、練習を続けて良かったと心から思いました。

ゼロ距離の蹴りを決めるポイントは、恐怖に打ち勝ち飛び込むこと。自分でもビックリする程相手の近くに飛び込むことです。

なお、この技は後にキックボクシングルールで試合をしたときも有効でした。接近戦になるとクリンチする人は多くても、ゼロ距離から蹴りを出す人は少ないので極めれば大きな武器になると思いました。