剣道は練習する環境次第で得られる技術や体力も変わってきます。
狭い道場と広い道場(体育館)での稽古の両方を経験し、とくに道場の広さはスタミナに影響を与えることを知りました。
ここでは、道場の広さが剣道に与える影響と、スタミナづくりに効果があった体育館での切り返しの往復稽古を取り上げます。
剣道ではスタミナと全身の筋力が求められる
基本的に剣道の試合は、一辺9~11メートルの正方形又は長方形の中で、3分間2本勝負となります。個人戦の場合は、その3分間で勝敗が決まらなければ、延長戦となります。これは勝者が決まるまで続きます。
つまり、どのくらい戦っているかはわからないということです。例えば勝敗が決まらず、10分間試合が続くなんてこともよくあります。ですので、3分という短い時間ですが、1試合に多大な体力を要するといえます。
また、引き技というのもとても大切になりますが、この技に関しては筋力、体幹、瞬発力がないと相手の隙を狙い、一本として決めることはできません。
つまり、剣道の試合の中で大切なものは、試合を戦い抜くスタミナ、簡単に崩されずどんな体勢からも相手の隙を狙える体幹、そして、それらを可能にする全身の筋力がもっとも必要だとも言えます。
狭い道場の稽古でスタミナ不足に
小学校へあがる前から道場に通っていましたが、昔からある古い道場というだけあって、狭く、とても幅広く動くことができるような環境ではありませんでした。
そのこともあり、幅広くスペースを使い相手を翻弄し、攻めるなどといった空間利用能力が低く、また残心が大切な引き技というものもあまり得意ではありませんでした。
さらに、狭いスペースで練習していたためか、打ち合いなどといった激しい試合になってしまうと、スタミナがないということも大きな課題となっていました。
体育館での切り返しの往復稽古
中学校の剣道部での稽古では練習環境ががらりと変わりました。
私が通っていた中学校には、小学校の時に通っていた道場のような剣道を行うスペースはなく、体育館を他の部活動と分けあって使っていました。
その中でも土日は、他の部活と被らず、体育館の全面を使えるような日も多々ありました。そんな日は、全面をフルに使い、また長方形の体育館の長い面を切り返しという動作とともに往復するという練習を行いました。
切り返しはみんなが向かい合い、片側は受ける方、もう一方は打つ方といった形で、お互いに前進後退する動きをします。
また、それを先生の放つ太鼓と共に行います。もちろんですが、のんびりと行うことはありません。ほぼ、走っている状態に近いといっても過言ではありません。さらに、一往復したらお互いに一歩右にずれ、違うパートナーとまた一往復するというのを繰り返し行っていきます。受け身が続いたあとは、打ち手が続くので、腕がだんだんとあがらなくなります。
これを先生の当日の気分や、私たちの声の出方などでどのくらいの時間やるのかが決まります。ですので、何回、何分という決まりがなく、いつ終わるとも分からないとても嫌な練習といったイメージを強く持っていました。
切り返しの往復でスタミナと筋力が向上
このような切り返しの稽古をして、まず一番に実感したのがスタミナ、持久力の向上です。体育館の往復を、すりあしで、さらに切り返しをしたまま行うのはかなりの体力を消費します。
また、それを30分から1時間繰り返し、休みもほとんどなく、腕も足も動かしたままなので、ひどい筋力痛になりました。体力と共に足、腕、体を支える全体の筋肉がつきました。
そのおかげで、竹刀を振りかざすスピードが早くなり、足腰に筋力がついたため、前にでるスピードも早くなりました。さらに、体幹が鍛えられたため、相手に押されても簡単にはぶれない安定感を得ることができました。
それらのことを強化できたため、自分よりも体格がよく、力のある選手や、手首のスナップがよく、打つスピードの早い選手などとも、同等に戦えるようになりました。
スタミナがついたことで、3分間という試合の中で、自分が必死に相手から1本をとらないといけないという場面でも、スピードを落とすことなく、攻めることができるようになりました。
初めてこの練習をやらされたとき、私は「こんな疲れるだけの練習に意味があるのかな。これだったらランニングの方が良さそう…」と思っていました。
胴着や袴、約5kgある防具を身につけ、素振りを加えながら摺り足で往復するというものが、マラソンとは全く違う効果をこんなにも得るとこができるということは、中学生の私には想像もつきませんでした。
どんな練習にもいろいろな意味があり、諦めずにやれば剣道に必要な体力や技術が身に付くものなのだと実感しました。