柔道を真面目に続けただけの男のデビュー戦…強豪に引き分けた理由

私は、中学から柔道を始めました。

私の中学は地区ではベスト8かベスト4を行ったり来たりの微妙なポジションにいました。

はじめた動機は何か素晴らしい志があったわけでもなく特に身体がデカいわけでもない。

ただ仲の良い幼なじみがやるから程度の理由でした。そんな状態ですから強くなるわけが無い。

でも練習だけは休まない。理由は先生が怖いから。

何よりも苦痛なのは先生との乱取りでした。

柔道を真面目に続けただけの男

中学の先生には立ち技では投げられまくり寝技では絞められまくりで休む間も無く繰り返される地獄のような時間でした。

強く無いものの練習だけは休まないから先生からは真面目に見えたのでしょう。

真面目に頑張ったご褒美なのか、初めて試合に出してもらえたのが中学3年の春の地区大会でした。

団体戦の補欠に選ばれました。

補欠とはいえ団体戦のメンバーに選ばれたのはうれしいことです。

かあちゃんに柔道着の背中に学校名と自分の名前の入ったゼッケンを縫ってもらった時の嬉しさは忘れられないです。

県大会のかかった試合で大将デビュー

さて試合当日もちろんですが私の出番などあるわけもなくチームは難なく1回戦を勝利。

2回戦も順調に勝ち上がり準々決勝です。

なんと先生の気まぐれかまたは、私への気遣いか準々決勝5人戦の大将でデビューを飾ることになりました。

この試合で勝てば準決勝に進出し県大会行きも決まる大事な試合です。

なぜ私が起用されたのか誰もが不思議でならなかったと思います。

試合は接戦になりました。

先鋒勝ち、次鋒勝ち、中堅引き分け、副将負け。

2対1で大将の私に回ってきました。

相手校は、中堅以降にポイントゲッターを揃えたオーダー。私の相手は1年2年と重量級の個人戦を連覇している選手でした。

私は、完全に無名の先生が怖いから練習休まなかっただけのデビュー戦の男。

強豪と引き分けた理由は無尽蔵のスタミナとパワー

試合の結果は……なんと見事な引き分け!

誰もが私の負けを信じて疑わず代表戦の準備を始めていた矢先に私は地区でもナンバー1の強豪選手相手にデビュー戦ながら引き分けてしまったのです。

なぜ、特に切れる得意技があるわけでも無い平凡な私が引き分けに持ち込めたのか。

それは無尽蔵のスタミナと重量級にも負けないパワーだったのかもしれません。

ちなみに当時の私の体重は60キロ。

私の父は土建屋を経営していて幼い頃から力仕事を手伝わされていました。

日曜はほとんど力仕事の日々だったのです。それと厳しい稽古で無尽蔵のスタミナを身につけたのです。

切れる得意技は無いもののどん臭く攻めて攻めて攻め続けるスタイルでデビュー戦勝利を飾る事が出来ました。

この調子で準決勝です。

準決勝でも引き分け!

準決勝でも大将を勤めました。

準決勝で対戦したのは今大会で優勝した中学でした。先鋒から副将まで全敗。

なぜか無意味に私だけ引き分けるという展開で幕を閉じました。

ちなみにこの大会は準決勝でボロ負けしたものの県大会に出場を勝ち取りました。

県大会では1回戦負けでしたので詳しく書くのはやめときます。

後の柔道スタイルを決めたデビュー戦

このデビュー戦がきっかけで私は「試合は勝つことだけでなく、負けないことも大切」だと知りました。

勝ちにこだわり過ぎると本質を見失う。

自分の役割を責任持って果たすことが重要なのだということを学んだ気がします。

このあと高校、大学、社会人と柔道を続けて行きますが、デビュー戦を通して学んだことは後の柔道人生に大きな影響を与えました。

その後の柔道でも相変わらずキレはないものの大事な場面でキッチリ引き分けて団体戦の勝利に少なからず貢献することができました。

柔道を通じて学んだこと

私が柔道から学んだ最も大きなものは「事の本質を見失わず自分の役割を果たす」ということです。

私は大学卒業後、警察官になりました。

刑事時代も犯人を取調べる際に頭に置くのは犯行を自供させることだけにとらわれないことでした。

ホントに大事なことは被害者の無念を晴らすことです。

その為には「犯行の動機を深掘りする」事が大切だと思っています。

窃盗を例にすれば「金が無いから盗む」だけではなく「なぜ働かない?」「盗み以外に金を手に入れる事が出来なかったのか?」「なぜその現場を選んだ?」等々ありとあらゆる事を話させます。

そして犯人の怠惰で自己中心的な人間性を浮き彫りにして相手にぶつけて完全に落とさなければ自供したとは言えないと考えます。

現在私は、警察を退職し企業のコーポレートセキュリティとして働いています。

今の私の仕事の本質は「スタッフが安心して働ける環境を提供すること」です。

これからも柔道から得た「事の本質を見失わず自分の役割を果たす」という学びを大切にしたいと思います。

ここで紹介した私のデビュー戦は、50歳を過ぎた今でもいい思い出です。

まさかこんな歳ですから大会に出るとかはありませんが地元の道場に通って細々と柔道は続けきました。

2020年は新型コロナの影響で練習らしい練習も出来ません。また練習が再開出来る日を楽しみに今は自主トレに励む毎日です。