MMAとは違う?2000年代に大道塾で教えていた実践的な寝技とは

僕は21歳の時に大道塾(後の「空道」)に通い出しました。

2000年代初頭というのは格闘技ブームの真っ只中ではあったものの、テレビ放送される総合格闘技はまだ重い階級中心。プライドのノゲイラvsミルコクロコップの対戦が話題になっていた頃です。

ノゲイラとミルコクロコップの対戦には寝業vs打撃という意味合いがありました。当時の総合格闘技は現在のような洗練されたスタイルではなく、「誰が強いのか」「どの格闘技が強いのか」を決める場所という雰囲気がありました。山本KID、五味隆典といった軽い階級のスター選手の誕生にはもう数年またなければなりません。

そのような時代に、大道塾が持っていた実践志向と、MMAとは異なる寝業の技術について僕が経験したことをお話しします。

実践志向の大道塾

空手というと型やすり足のイメージだったのですが、大道塾で最初に教わったのは足の爪先だけに力を入れてかかとを浮かして、突きを打つ、ボクシングの様なスタイルでした。

「相手を倒す」ことが最も重要で、型にはまらない空手を教え込まれました。

道場に通い始めて3カ月が経った頃、自由練習で道場に行ったらジーパン姿の男性がサンドバッグを打っていました。

年齢は50代位で明らかに先輩であったので、「押忍」と挨拶をすると。

「新人か?ちょっとやってみろ」

とサンドバッグを突くように言われました。

何発か突いていると、

「あったまったな。やろう」

といきなり組み手に誘われました。

初めて経験した大道塾の寝技

空手を習い始めてちょうど楽しくなってきていた時期だったので、こちらも「やってやろう!」という気持ちで応じました

組手が始まると、相手はいきなりタックルを仕掛けて来たのです。

何が起きたか分からないままにバックを取られ、チョークスリーパーで落とされそうになりました。

と、その男は、

「まだ、始めたばかりだから、今のうちに勝つための修行をしなさい。慣れてきてからでは遅いから」

と言いました。

正直、その時はびっくりしていたのもあり、何が何だか分かっていませんでした。

大道塾のタックルとニーオンザベリー

帰り道、男の言葉について考えていました。僕自身、空手をやるのは楽しいけど勝つことへの執着はそこまで無かったのかも、と思いました。

実は、道場で出会った男は寝技クラスの先生で、僕はその教室に通うようになりました。

寝業クラスの練習で最初に習ったのはタックルでした。しかも、基本的に相手の攻撃へのカウンターを想定したタックルでした。

突きに対しては、相手の膝裏を抱え込む様な両足タックル。蹴りの動作に対しては、軸足の膝裏を抱え込むパターンと踵を刈り取るパターンの片足タックル。

空手のタックルはあくまでも相手の意表を突くことが目的とされており、タックルをメインに闘うことは考えられていませんでした。

寝技も、今にして思えば独特で、極めに行く際は、MMAで見るようなマウント状態ではなく必ず左足の膝で相手を抑え、右足の裏は地面についている膝立ち状態(ニーオンザベリー)を理想としていました。

そして、相手を仰向けに抑えた有利な体勢でも、蹴りや突きを打ってくることを想定して動くように教え込まれました。

このとき教わった寝業が、当時の大道塾で行われていた一般的な技術だったのか、それとも、たまたまその先生だけが教えていたものなのかは今となっては分かりません。

フェイントだけのタックルでも有効な理由

大道塾の寝技クラスに通うようになり、通常の稽古の組み手でも不利になるとタックルを仕掛けていきました。

正確に言えば、タックルをする素振りがほとんどです。ちなみに模擬試合でもフェイント止まりで、寝技までは行いませんでした。

倒しきるところまではやらないのですが、その後の組み手で、相手は自分のタックルを警戒して攻め手が明らかに薄くなりました。

その時に、「こういうことか!」と納得しました。

寝業クラスの先生は、「寝技は出来るけどやらないのが理想」という考え方だったからです。

こんなことを言っていました。

「寝技で勝つことは美しくない。だから使わない事が一番良い。だけど一番よくない事は負けることだ。打撃のみで闘うとワンパターンになりがちだ。それは、相手に読まれるということ。読まれれば負けだ。寝技が出来るとこちらのパターンが増える。こちらにとっては心の余裕になるし、相手にとっては脅威になる。つまりは勝ちにつながるんだ」

「タックルを見せる」は応用が利く

その後、1年後に引っ越した際に大道塾を辞めたので、実質の空手歴は1年ですが、寝技の先生の教えは社会人生活でも役立っていました。

出来るけどやらない。そのうえで相手に出来るという事をわからせる。手札をチラッと見せる事で、相手の想像力を働かせる。そこが攻め時。

何の話しかというと、私が仕事で行っている営業の話です。

全ての商材は出さず、ひとつ相手が気になるモノをちょっと見せる。言い方は悪いですが、それで相手に食いつかせるのです。

空手から離れてもう20年近いですが、見せるだけのタックルは僕の社会人としての大事な技に変りました。