大月晴明という選手をご存知でしょうか?
キックボクシング界ではすごく有名な選手で、あだ名は『爆腕』。
豪腕ではなく、『爆』腕です。
試合を見たら一目瞭然、「ああ、こりゃ『爆』だわー」ってなります。
大月晴明の試合には、キックボクサーはもちろんのこと、MMAファイターが学べるものが沢山あります。
ここではKNOCK OUT SUMMER FES.2018(2018年8月19日、大田区総合体育館)で行われた大月晴明と森井洋介の対戦について見てみましょう。
大月晴明のファイトスタイル
大月晴明のファイトスタイルは独特です。低いガードから伸び上がるようにして打つアッパーを筆頭に、なんでそのフォームで当たるの? みたいな大振りなパンチが持ち味です。
この説明だけ聞くと強靭なフィジカルを頼りにブンブン振り回す野生児みたいな印象を与えるかもしれませんが、実際のところは超絶頭脳派な選手です。
頭腦派なので、一見大振りに見えるパンチや隙だらけに見える構えでも、そのひとつひとつにそうする理由があります。大月選手の試合はエンターテイメントとしてだけではなく、技術を盗む意味でも大変参考になるのです。
大月晴明vs森井洋介、試合の見どころは?
大月晴明vs森井洋介の試合が行われたのは2018年のこと。
この時点で大月晴明は既に44歳、全盛期の頃と比べて踏み込みのスピードに衰えが見られます。
リーチの短い選手にとってスピードの衰えは致命的となり得るものですが、大月はベテランの経験で上手く戦っていました。
この試合を通じて、大月がどのように相手にプレッシャーをかけ、自分のペースで試合を進め、さらには、一見すると運よく決まったかに見える大技をいかに用意周到に準備しているのかを知ることができます。
大月晴明の右手を使ったプレッシャーのかけ方
この試合、特に私が注目したポイントは、1ラウンド途中からの大月の右手の動きです。
オーソドックスに構えた大月は、奥の方にある右手を伸ばして様子を窺っていました。
普通は前の方にある左手を伸ばすものだと思うのですが、大月は左の飛び込みアッパーが得意。右手を伸ばすことが左の攻撃のタメになるため、左のアッパーを警戒する相手にプレッシャーをかけることに成功していました。
結果、森井洋介は迂闊に前に出ることができない状況に陥り、自分の身近にある大月の右手をまず崩していこうとしました。
その判断自体は間違いではないのですが、このせいで試合のイニシアチブをしばらくの間大月に奪われることとなりました。おそらく森井選手には大月の右手がすごく大きく見えたことでしょう。
試合を支配する大月晴明
この時点で大月は森井の行動を制限することに成功したわけです。
右手をはたいて入るか、
横に回るか、
先にパンチを打たせてみようか、
大月からしてみたら、相手が右手にフォーカスしたことで次の行動が予測しやすくなったはずです。
その後しばらく森井の試行錯誤の時間が続きました。その間大月はプレッシャーを掛けながら遠くからローで削ります。
そして意識が上下に散ったところで飛び込んでパンチをまとめる。
森井が反撃に出る前にバックステップで脱出。
計算された、相手の意表をつく試合の組み立て
序盤大月ペースの試合展開だったんですが、ノーガード戦法が祟りました。
打ち終わりにいいのを何発か貰ってしまった大月は、最終的に足を止めてしまい、森井選手の猛攻を受けて沈みます。
相手にプレッシャーをかけることには成功していましたが、打ち終わりに同じ場所に留まる場面が多かったことが被弾の原因でしょう。
しかし最後に大月も見せ場を作ります。
3Rの2分40秒ごろ、これまでのように右手を伸ばすかに見えた大月はそのまま加速し、それまで見せてなかったハイキックを振りぬきます。
残念ながら当たりませんでしたが、実に見事な戦略でした。このような相手の意表を突く攻撃が仕掛けられるのも右手の布石があればこそ。私なら絶対に食らって失神しています。さすが大月! 最後までクレバーだぜ!!!
大月の戦法は読み合いに支えられています。
そのタイミングはいかに相手の意表をつくかを強く意識して組み立てられています。
遠間から飛び込む総合格闘技と大変親和性が高く参考になる上に面白い。
ぜひあなたも大月の試合を見て学んで対戦相手をノックアウトしてみましょう。
(文・千里三月記)