「試合に出てみないか?」
総合格闘技のジムに通っていたとき、こんな誘いがありました。
詳しく聞いてみるとオクタゴン(UFCなどで使う金網に囲まれたリングのこと)でのイベントだというのです。
リングと金網の違いに興味津々
オクタゴンなんてテレビでしか観たことなかった私は、リングとどれだけ勝手が違うものか興味が湧き、ひとつ出てみようということになりました。
イベントに出場するに当たって色々調べてみました。
リングで活躍した選手がオクタゴンでは精彩を欠くということはよくあること。例えば、格闘技イベント『プライド』のスター選手だったミルコ・クロコップがオクタゴンで戦って惨敗した、なんてこともありました。
どうやら四角いリングと円形に近いオクタゴンでは最適な足捌きに違いがあるようでした。
あとは金網を背にしてのエスケープなど、金網専用の技術が必要のようでした。ただ私は田舎に住んでおり、オクタゴンを置いているところなどは皆無。金網での実践練習は諦めて別の対策を練ることにしました。
肘打ちありのMMAルールだった!
私が勝機を見出したのは「肘打ち」でした。
ルールブックを確認したところ、肘打ちがOKになっていたのです。
肘打ちというのはちょっとかすっただけで皮膚が裂けて出血する危険な技。キックボクシングでだって、プロの試合以外はまず使いません。当然、肘打ちによる攻撃や防御を練習する機会は非常に稀です。
キックボクシングですらそうなのですから、総合格闘技の選手であれば肘打ち対策はあまりしていないだろう、と考えました。
タイ人に聞いた肘打ちを簡単に当てる方法
まず、肘打ちの手の形なんですが、フックを打つときに指導されるのと同様に、顔の前で腕時計を見る形をつくります。
次にその手で同じ側の自分の乳首をつまみに行くことで、肘関節を鋭角に曲げます。右手なら右側、左手なら左側の乳首です。
この動きに腰の回転や踏み込みを組み合わせると肘打ちとなります。
さて、ここからが本題です。
幸いなことに私が通っていたキックボクシングジムにはタイ人のトレーナーがいました。その彼が肘打ちを簡単に当てる方法を教えてくれたのです。
重要なのは、相手のタイプによって打ち方を変えること。
ボクサータイプの相手に肘打ちを当てる方法
両手で顎を挟み込むファイティングポーズがありますが、このときの両腕の幅の広さによって当てやすい肘打ちの軌道が変わってきます。
まず相手がボクサータイプの場合。
ボクサータイプは両手の間隔が狭いので、外から巻いて肘を狙うのが得策です。
同じ側の相手の腕を手繰り寄せて肘を当てます。
腕時計で時間を見る動きをするときに自分が右手なら相手の左手、左手なら相手の右手を引っ掛けるのです。
引っ掛けたらそれを自分の乳首に引っ張り寄せるようにして肘打ちをします。こうすることで安定して肘打ちが当たります。
キックボクサータイプの相手に肘打ちを当てる方法
次は相手がキックボクサータイプの場合です。
キックボクサータイプは回し蹴りを警戒して両腕の間隔を広げて構えています。タイスタイルだとこの傾向はさらに強まります。このような構えに対してボクサータイプと同じ肘の入れ方では届きません。
どうすれば良いのかというと、対角線の腕を取ればいいのです。
右の肘打ちを出すときは、対角線にある相手の右腕を取り、手繰り寄せながら肘打ちを出します。ボクサータイプのときのように外から巻いて当てるのではなく、正面から肘打ちを当てます。
つまり、相手の構えを良く見て、両手の間隔が狭いボクサータイプなら、同じ側の腕に引っ掛けて外側から肘打ちを当てる。両手の間隔が広いキックボクサータイプなら、対角線の手を取って正面から肘打ちを当てる、というわけです。
実際にこれを試してみたところ、面白いように肘打ちが当たりました。
もし肘打ちありのルールで試合をする機会があるようなら、相手の構えをよく見て肘打ちを使い分けてみてください。また、構えによって当たりやすい肘打ちが異なることを知っていれば、肘ありルールの試合を観戦するときの見所も増えるでしょう。
(文・千里三月記)