減量は、筋肉量を維持しながら行えば競技を有利に進めることができる非常に重要な行為であるが、やり方を間違えると逆に試合におけるパフォーマンスを悪化させてしまう。
今回は、私の減量失敗談について書かせていただこうと思う。
アマチュアボクシング全日本選手権を目指して減量
私は約15年ほど前までアマチュアボクシングの競技者であった。試合における適正な階級はライト級(60kg級)またはフェザー級(57kg級)であったが、さらに一つ下の階級(バンタム級・54kg)に挑戦した結果、減量に失敗した。
なぜ適正な階級を避けてまでバンタム級で試合に出場することにしたのか? その過酷な減量に挑戦した試合とは、全日本選手権の東京都予選であった。
その試合に出場したのは私がボクシングを引退する年であり、有終の美を飾るためにどうしても全日本選手権に出場したかった。
階級を下げた理由
しかし、ただでさえ全国的な強豪がひしめく東京都にあって、ライト級・フェザー級の当時の全日本王者は東京都所属。もしライト級・フェザー級で出場する場合、予選の段階で全日本王者と戦わなくてはならなかった。
全日本王者と戦うことを避けたかった私は、階級を上げる選択肢ではなく、階級を下げる選択肢をとった。
ちなみに当時の減量前の体重は64㎏であり、適正階級であれば試合の1か月前から約4kg~7kgの減量をしていた。バンタム級で試合に出るのは初めてであったため、普段より長めに期間をとって1カ月半ほどでバンタム級のウェイトを作ろうとしていた。
カロリー計算による減量方法
減量の仕方には大きく分けて2種類の方法がある。一つは「カロリー計算」、もう一つは「水抜き」という方法である。
「カロリー計算」とは、文字通り摂取カロリーを計算し、目標体重に達するまでカロリー制限をするという方法である。
具体的には、
(1日に消費するカロリー)>(1日に摂取するカロリー)
であれば痩せる、ということになる。
ちなみに、体脂肪1gを落とすには約9kcalの消費が必要になる(正確に言うと、消化にもカロリーを使うため、9kcalよりは少ないが、ここではひとまず9kcalとしておく)。
よって、1か月半(45日)で10㎏落とそうとすると、一日約222gほどの体脂肪燃焼が必要で、その場合に必要なカロリーは一日当たり9kcal×222=1,998kcalということになる。
当時の私の運動量は朝に5~10kmのロードワーク、昼は学校の部活動で、夕方はボクシングジムで練習をしていたため、基礎代謝を含めると一日に3,500kcal~4,000kcalほど消費していたと考えられる。よって、一日の食事を1,500kcal~2,000kcalに抑えれば理論上は1カ月半で落ちる、はずだった。
カロリー制限で体重が落ちなくなった理由
しかし、57kgあたりからほとんど体重が落ちなくなってしまった。なぜか? 落とす脂肪がなくなってしまったからである。
家庭用体重計で測った数値だからあくまでも目安ではあるが、当時、体重57kgの時の私の体脂肪率は7%ほどであり、いわゆるこれ以上低いと命の危険があるとわれる体脂肪率(4%程度)に近い状態であった。
つまり、「ない袖は振れない」という状態であったため、食事制限で短期的に体重を落とすのは難しいという状況になったのである。残り3kgがなかなか落ちず、残り2日という状況になってしまった。
水抜による減量方法
そこで何をしたか? もう一つの減量方法であるいわゆる「水抜き」という方法である。「水抜き」とは体重が落ちにくくなった際の最終手段である。
これは階級制のスポーツを経験した方ならやったことがあると思うが、残り1kg~2kgの減量が必要な際に、運動などで汗を出し、計量まで水分を取らずに体重を落とすという方法である。
あくまでも最終手段であり、やりすぎると脱水症状を引き起こす諸刃の剣である。55kgまでは何とか落ちたが、残り1日で1kgを残して汗が出なくなった。仕方なく、練習後にサウナに入り、その後ガムを噛んで唾を何度も出し、何とか体重を落としたのであった。
当日計量ではリカバリーできない
それでも試合の前日に計量があるのであれば、1日を回復に充てることができるが、アマチュアボクシングは試合当日の計量である。唾も出ず、口の中がカラカラの状態で何とか計量をパスするという状態だった。軽い脱水症状だったのだと思う。
試合では軽い右ストレートをもらってダウンしてしまった。普段なら絶対に効かないようなパンチで効いて倒れてしまったのである。その後、何とか判定までは粘ったが、結果は判定負けであった。当然そのような状態で本来のパフォーマンスができるわけがない。
過度な減量を行うと自分本来のパフォーマンスを出せなくなってしまう。適正な階級で試合をすることの大切さを学んだ。
(文・amabox10)