大日本プロレス伊東竜二vsMASADA…デスマッチに受け身を学ぶ

高校の部活動で入っていた柔道部。

私が試合展開で参考にしたのはプロレスだった。

柔道出身でプロレスに転向した例では、かの小川直也が最も有名だろう。

かといって、すべてが試合の中でうまくいくわけもなく、成功するときも失敗するときもあった。

しかし、プロレスを見ていて一番に参考になったのは、技ではなく受け身についてだった。

プロレスのデスマッチの魅力

プロレスの醍醐味といえば、かっこいい入場シーン、派手な技など目に見て分かるものが出てくるだろうが、私は技を受けるレスラーがかっこいいと思っている。

中でも、通常のプロレスと違うデスマッチと呼ばれる、凶器・特別ルール・反則裁定無しのルールが私は好きだった。

武器を使っていい戦いに、なんら学ぶものはない…と思うかもしれないが、慣れていないと目には辛いが、実は1番深く考えられるものである。

私はそのデスマッチをはじめて見に行った試合が、その後の柔道でのスタイルを変えたのである。

2008年1月6日、大日本プロレス桂スタジオ大会のメインイベント。

BJWヘビー級選手権 伊東竜二vsMASADAだ。

大日本プロレス、伊東竜二vsMASADAのルール

まずこの試合の通常のプロレスルールと違う特別な点は以下の通りだ。

  • リングの周りを囲むワイヤーゴムが有刺鉄線
  • リングの端にコンクリートブロックが16個
  • リングの端にファイヤーボードが2枚

それに加え場外の椅子は使い放題、場外・反則カウントも無しだ。

聞くだけでも壮絶である試合内容ではあるし、デスマッチを毛嫌いするプロレスファンからすれば怒りがこみ上げてきそうな内容だ。

デスマッチアーティスト・伊東竜二

伊東竜二という選手は、当時の大日本プロレスでエースと呼ばれる絶対的チャンピオン。

試合展開もうまく、デスマッチアーティストの異名も持つ選手だ。

バカガイジン・MASADA

対してMASADAは、ファンから「バカガイジン」と呼ばれる。もちろん、誉め言葉だ。

7凶器の使い方がとにかくうまく、また試合の破天荒さがすさまじく、そう呼ばれている。

スリリングなデスマッチの攻防

序盤は互いに有刺鉄線にぶつからないようスリリングな攻防が続くが、次第に攻防はエスカレートしていく。

コンクリートブロックを持てば、背中に何度も振り下ろし殴打。またその上に叩きつける。リング下に隠してある予備机を持ち出して投げ飛ばす。

ファイヤーボードに引火し、振り回す。設営用のやぐらを持ち出し、その上から飛び技などプロレスからはかけ離れたような世界だ。

結果、30分近くものの激闘の末、やぐらの上からのドラゴンスプラッシュ(開脚式ボディプレス)で、チャンピオン伊東竜二の勝利となった。

デスマッチで問われる受け身の上手さ

ここまで聞いたうえで、何を学ぶことがあるんだという感想になりそうだが、目の前で見ていれば分かることがある。

どんなにふらふらになっていても必ず受け身があるということだ。

上にも書いたが、コンクリートブロックに叩きつけられたら普通の人間はそれだけで骨が折れたりすることだろう。もちろん、レスラーは鍛えているからと言われればそれまでだが、リングに叩きつけられる瞬間には受け身を必ず取ってダメージを抑えられる技術がある。

通常の団体と違い、彼らには凶器が付随する。通常以上のダメージを負ったうえで、受け身が出来るだけで大丈夫というわけではないけれども、怪我をしない、最小限で済ませるために大事なことなのだ。

怪我をしないための受け身の大切さ

試合後、身体中血だらけのまますぐに会場出口に選手がやってきた。彼もセミでデスマッチを終えた選手である。観客一人一人に握手をしにやってきた、先ほどまで壮絶な試合をしていたにもかかわらずだ。

痛くないのか?と、私もついつい聞いてしまったが、

「いてぇよ、すごいいてぇ! でも、怪我したらすべて終わりだし、みんな応援してくれるから」

このような回答が聞けて、やはりすごいと思った。

私自身もその後何度も投げられ、受け身の練習をした。

痛い、慣れてからもそれは痛いが、デスマッチ上での受け身に比べれば畳は優しいものだと。

受け身の大事さをデスマッチから学び、その後の柔道生活でもそれは活かされ、厳しい当たりがあった中で、一度も怪我をすることはなく、受け身の正確さから恐怖感や抵抗などもなくなり上達して、柔道部で副主将を務めるまでになった。