空手の先生に学んだ常在戦場の心構え…達人に近づく稽古方法とは

「常在戦場」という言葉をご存知でしょうか?

読んで字のごとく、常に戦地にいる気持ちでいなさいという教えです。

今から20年近く前、私が20代の時にお世話になった、当時60代の小さなおじいちゃん先生に学んだ稽古の心構えについて話します。

スナックを経営する空手の先生

私が20代のころ、大道塾(現 空道)に通ていました。

そこで、指導してもらっていたのが、当時60代で150㎝台の通称「おじいちゃん先生」。

空手歴は違う流派も含めて50年近くになるというそのおじいちゃん先生は、普段はスナックを経営していたので、弟子たちはこぞって飲みに行っていました。

私も例外ではなく、おじいちゃん先生のスナックに行っていました。

おじいちゃん先生のお店は、道場から歩いて行ける距離にあり、カウンターが10席とボックスが2席のそんなに大きなお店ではなかったです。

ママとチーママとたまにバイトの女の子。そしておじいちゃん先生の3人がお店に立ち、主なお客さんは近所の商店街のおじさんや我々のような弟子たちでした。

お店でのおじいちゃん先生は、たくさんしゃべる事もなく、ほとんど何か作っているかトレーニングをしていました。

そうです、カウンター越しにおじいちゃん先生のトレーニングを見ることができたのです。

巻藁稽古?柱にまかれた荒縄に正拳突き

おじいちゃん先生はよく、ダンベルを持ち上げながら接客をしていました。

さらに誰かがカラオケを歌っている時など、柱に向かって手刀や正拳突きをしていました。まるで手拍子の様に。

最初はびっくりしていたのですが、だんだん見慣れてしまい、特に気にしなかったのですが、ある日、その柱を見て驚きました。

荒縄がまかれており、白い荒縄は打っているであろう箇所がどす黒く変色していたのです。

どんな力で打ちこんでいるんだと驚きました。

接客中も鉄下駄鍛錬

通いだして、半年くらいでようやく気付いたのですが、実は、お店のカウンター内は少しだけ低くなっており、それに合わせてカウンターも低くなっていました。

なぜ気付いたかというと、カウンター内のおじいちゃん先生はいつもと同じくらいの身長ですが、カウンターから出てくると少し大きかったのです。

よーく見ると鉄下駄を履いていたのです。

鉄下駄を見たのは生まれて初めてでした。

雑誌の広告ページでしか見たことのなかった鉄下駄を実際に履かせてもらいましたが、本当に足が上がらない、というよりも指の付け根が痛くて上げられたものではありませんでした。

これを履いて普通に何時間も店内でドリンクを出したりしている。「なんだこの人は?」と驚いていました。

練習じゃあないよ。稽古だよ。

その日はママが風邪をひいて人手が足りないとかで、おじいちゃん先生が接客をしていました。

「なんでお店で練習しているんですか?」

と聞いてみました。

すると

「練習じゃあないよ。稽古だよ。練習は上手くなりたいから、勝ちたいからするもの。でも稽古はその先を見据えているんだよ。空手で言えば強くなることだけど、日本舞踊なら魅せることができる様になるためにする」

「強くなろうと思ったら自然とやっちゃうんだよ。手が空いてたら、手の鍛錬をするし、足が空いてたら足の鍛錬もする。お客さん相手にしてて、両方使ってたら、頭で目の前のお客さんをどうやって倒すかを考えてる。今も君をどう倒すかを考えている。そうなったら24時間でも足りないくらいだよ」

といって大きく笑っていました。

達人に求められる常在戦場の精神

本当にその話を聞いたときに目から鱗というのはこういうことかと。

これが達人になる人の心持ちなんだなと思いました。

空手は練習ではなく稽古をするもので、稽古とは、常に行うものである。

それから、私も仕事に対しても稽古のつもりで、どうしたらうまくいくかを常に考える様になりました。そうすると、おのずとやるべきことが見えてくる様になっていきました。

数あるおじいちゃん先生に教わった中でも、とても大切な教えです。

でも、稽古なんて自己満足

おじいちゃん先生がボソッと「まあ、稽古なんて自己満足だから、良く怒られるんだけどな」と言っていました。

ある日、思いついて、自分の自転車のサドルを外しました。

こうすれば、自転車出勤している自分は、この時間も足腰の鍛錬になると思いついたのです。

確かに常に立ち漕ぎなので、足腰の鍛錬になったのですが、ある日帰りに漕いでいたらものすごい勢いで警察に捕まりました。

私の自転車だといっても信じてくれず、車両証明が済んだ後も危ないヤツと思われたのか、カバンの中身を見られ、なぜサドルがないかを長く追及されました。

稽古なんて自己満足、怒られることもある。確かにその通りと思い知りまりました。

おじいちゃん先生に教えてもらったのは、常に稽古をしなさいということ。

稽古とは、頭で考え、強くなるためになにが必要かを自然と行うことである。

この教えは社会人になった今でも私の中で大きな意味を持っています。

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