筋トレでスピードが落ちる?ボクサーのための腕立て伏せのやり方

筋トレと言うと、バーベルを使ったベンチプレスや、ダンベルを使ったショルダープレスなどをイメージされる方が多いと思います。

ボディビルダーや、見た目の筋肉のごつさを望む人にとっても素晴らしいのですが、いわゆるスポーツとしての筋トレ、特にスピードが命のボクシングとなると話は変わってきます。

ボクシングは階級によって筋トレも変わる

ボクシングにおける筋トレは、ミドル級(約72kg)以上の重たい階級の選手が、軽めの重量でスピードをつけてベンチプレスをする、といった方法はよくやられています。

しかし、中量級や軽量級の選手が同じことをするのは、今でもご法度になっているのではないでしょうか。

胸や腕の筋トレでパンチが落ちるケース

胸の筋肉が盛り上がり、腕が太くなると、パンチも強くなるのではないかと勘違いされている方が多いようです。

残念ながら、あれは見掛け倒しで、パンチはむしろ落ちてしまうというのが私の意見です。

というのは、パンチを出す瞬間に力が入ってしまって、相手の体に当たった時には威力が全く無いのです。

では、どうすれば良いのか?

パンチ力を生み出す体の使い方は

ボクサーとって一番の武器はパンチを打った時のスピードです。

本当に相手に対してダメージのあるパンチを打つのに大切なことは打ったパンチと同じぐらいのスピードでそのパンチを引く、ということ。

いわゆる「切れるパンチ」というやつです。革の鞭でターゲットの物に狙いを付けて、上から振り下ろすと、自動的に鞭が自分の方に戻ってきますね。あれと同じ原理です。

ではボクサーにとっての筋トレとはどんなトレーニングかというと、ズバリ、スピードを付けた腕立て伏せです。

スピード命の腕立て伏せとは

ボクシングに求められる、スピードを最優先した腕立て伏せのやり方をご紹介します。

やり方は簡単。床などの固いところで、胸の前に直角に手を置いて上下運動をスピードをつけて繰り返すのです。

スピードを付けての腕立て伏せですから、当然多少の弾みと言いますか、早く繰り返すことによる腕の跳ね返りがあります。その分、筋肉にかかる負荷という意味では楽な部分もあります。

腕立て伏せの回数の目安

スピード重視の腕立てでは、床からの跳ね返りを利用しても構いません。大体、一度で100回から130回ぐらいやれば良いのではないでしょうか。気を付けなければならないのは、腕を下に下ろすときに口から息を吸い、伸ばすときに息を吐くということ。そうしないと、心臓に余計な圧がかかります。

ただ、これもその選手の体力と言いますか、肺の強さで、あえて無呼吸で心肺機能のトレーニングとしてやっているトップボクサーもいます。私は今でも130回の腕立て伏せをやっておりますが、さすがに呼吸の吸う、吐くは教科書通りにやっております。

こうした腕立て伏せは1日の練習の中で、1回だけやれば十分です。これ以上やると、ボクサーにとって命のパンチのスピードを落とすことになりかねません。たくさんやればいい、というものでもないのです。

腕立て伏せのバリエーションについて

よく、腕を置く位置を肩の辺りに持ってきたり、手を体に密着させないで、あえて体から少し離して、違う負荷を腕にかけたりするボクサーも見かけますが、重量級の選手でもない限り、感心しません。

特に軽量級のボクサー(ミニマム、フライ、スーパー・フライ、バンタム、スーパーバンタム級辺りまで)はスピードが命ですから、通常の腕立て伏せ以外は止めた方が良いでしょう。

最近は多くのボクサーが手のひらではなくて、拳のパンチの部分で腕立て伏せをやっているのを見かけますが、それは構わないと思います。別にそれによって、拳が固くなって、パンチがよりつくわけではありませんが、しっかりと拳を握る癖を付けるには良いと思います。ただ、出来る腕立て伏せの回数は当然少なくなります。

腕立て伏せを行うタイミング

腕立てをやるのは、練習前の入念な準備運動、ロープスキッピング(縄跳び)、シャドーボクシング、スパーリング、サンドバッグ打ち、スピードボールなどや腹筋のルーチンの練習が終わった後が良いです。腕だけが命のボクサーは腕立て伏せの後に、充分な柔軟体操や、できればマッサージも行います。

腕立て以外にやるとすればインターバル

最後に、とっておきの心肺機能をアップする方法を紹介します。

それはジムでのインターバル走行による自転車こぎです。最初は普通のスピードでこいでいて、突如として30秒間はもの凄い全速力でこぐのです。その間の呼吸はほぼ吐くだけになりますが、30秒ならできます。

そのあとはまたリラックスしたこぎ方をして(選手によってリラックスの時間が変わります)、ある一定の時間が来たらまた再び30秒の猛ダッシュです。これをボクシングのゴングを見ながらやるのです。その日の体調にもよりますが、3ラウンドもやれば充分ではないでしょうか。

私はトレーナー時代も、筋トレの指導は腕立て伏せのみで、懸垂でさえ軽量級はやらない方がいいという考えです。腕立て伏せの他に何かやるのなら、インターバルがいいです。ただし、元世界スーパー・フェザー級チャンピオンの内山高志がこれで練習していましたが、それは、見ている方が苦しくなるほどのハードな練習でした。

こちらは70代の元プロボクサーの方が書かれた記事になります。昔から筋トレでスピードが落ちるという話はよく耳にするのでとても興味深い内容でした。

現在のボディビル的な筋トレでは、負荷をかけて8~12回くらい行うのが効率が良いとされています。「腕立て100回」というと、いかにも根性論のような感じがするかもしれません。

しかし、長年の経験にもとづく考え方なので重みがあります。床の跳ね返りで行う腕立てなどは、今風に言うなら反動を利用するSSC(ストレッチ・ショートニング・サイクル)とも解釈できます。ジムでの自転車こぎはHIIT(高強度インターバルトレーニング)やタバタ式トレーニングと同じ発想です。

経験則による根性トレのように見えて、意外にも、最新の方法と共通点が多いというのは興味深いですね。

ひとつ言えるのは、根性論の道も最新科学の道も、結局はハードなトレーニングをするしかないということ。「楽して強くなる」という意味での効率の良いトレーニングは存在しないのでしょう。