プロレスを見はじめた1981年9月23日、僕のヒーロー、タイガーマスクがメキシコの太陽仮面ソラールと対戦する田園コロシアムでのこと。
タイガーのついでと言ったら失礼だが、僕はスタン・ハンセンvsアンドレ・ザ・ジャイアントの対戦で、タイガーとは別のプロレスの魅力に取りつかれた。当時中一、まさしくプロレスゴールデンタイム、金曜の8時ほど楽しみの時間はなかった。
この試合はプロレスを見たこともない人でも十二分に楽しめる。まさしく、肉弾戦のカードである。ゴジラやキングコングなどの怪獣の対決の雰囲気だ。プロレスの基本はやはり大きさである。
新日本プロレスでは日本人対決の名勝負が多かったが、意外に外国人対決の中にもなかなかのカードがあった。ハンセン対ベイダー、ベイダー対ビガロ、ウイリアムス対バーバリアン…そして伝説とも言われたスタン・ハンセン対アンドレ・ザ・ジャイアントである。
スタン・ハンセンvsアンドレ・ザ・ジャイアント
当時の新日本プロレスの外国人エースのスタン・ハンセン、そして世界最強のアンドレ・ザ・ジャイアントが対戦した。
ハンセンはテキサスロングホーンのウイーで大歓声。対するアンドレは男性マネージャーを引き連れて入場する。とにかくデカいアンドレだ、いつもながら圧倒される。
アンドレがいつものように、トップロープをまたいでリングインする瞬間、リング上のハンセンは、アンドレに先制タックルをしかけるが、アンドレの巨大なカウンターキックで吹き飛ばされた。
まさに至近距離から戦艦ヤマトの主砲を発射したようなものだ。アンドレは二階からのヘッドバッド、ハンセンもエルボーやキックで反撃。リングアナウンサーのコールもなく二頭の怪物が噛みついた。ここでゴングである。
アンドレ・ザ・ジャイアントのベアハッグ
怪物の肉弾戦が始まる。パワーでアンドレをコーナーに振るハンセン、ハンセンの攻撃には再度、カウンターキック。アンドレの動きも素早い。
250キロのアンドレが、140キロのハンセンをベアハッグ。普通の人間なら一発で即死してしまいそうだ。会場内に大ハンセンコールがこだまする。
巨大なアンドレのベアハッグは外れない、もがくハンセン。だが、ここで伝家の宝刀ウエスタンラリアットがショートレンジでアンドレの顔面を吹っ飛ばす。
ハンセンはキックやパンチで反撃に転じる。
アンドレ・ザ・ジャイアントのサブミッション攻撃
だがアンドレがなんとハンセンの腕封じに出た。パワーのみだと思われたハンセンのサブミッション攻撃だ。
左腕を決めにかかるアンドレ。ラリアット封じのグラウンドでの腕殺し。これはビックリだ。
藤原喜明のような腕固め、ヘッドバットやストンピングで痛めつけていく。腕攻撃がしつこく続く、なんと猪木がタイガージェットシンに見せた腕折りまで見せる。アンドレの一方的な展開だ。
そして大技、アンドレがブレーンバスターでハンセンを吹っ飛ばす、2メートルの高さから半円を描くように叩きつける。まさしくジャイアントだ。
スタン・ハンセンのボディスラム!
しかしハンセンも負けてはいない、ショルダースルーをかわし、なんと250キロのアンドレをボディスラムで完全に持ち上げマットに叩きつけた。館内は大歓声だ。
世界で5人目の快挙である。勢いに乗るハンセンはアンドレにエルボーを叩き込むがこれは自爆。だがハンセンペースは続き、パンチにキック、そして、これもまた珍しい、キャメルクラッチラクダ固め。
日本人にはマネの出来ないパワーファイトだ。その後もエルボーやニードロップでアンドレを圧倒する。肉弾戦は続き、もつれて場外へ転落。殴り合いや鉄柱攻撃の中、両選手リングアウトの裁定が下る。
出るか?ハンセンのウエスタンラリアット
ビッグマッチ特有のいつものため息の出る両者リングアウト。だが、この試合は違った。レフェリーや新間本部長、アンドレ、ハンセンの4人が協議し、異例の延長戦だ。館内の1万3500人は興奮の坩堝だ。巨獣の対決の第2ラウンドが始まった。
ハンセンはパワー全開で攻撃する。パンチにキック、そしてボディイスラム以上に僕がインパクトを受けたのがハンセンの背負い投げだった。250キのアンドレが宙に舞った。柔道なら、まさしく一本勝ちだ。
だが、世界最強アンドレも負けてはいない、パンチにキック。チキンウイング攻撃に2階からのヘッドバッド。そしてアンドレのボディスラムでハンセンをマットに叩きつける。アンドレ必殺パターンのジャイアントプレスだ。これを食らったら圧殺である。だがハンセンはギリギリかわした。
自爆したアンドレにハンセンはエルボー。だがアンドレもかわしていく。まさしく肉弾戦の名勝負。アンドレがロープにハンセンをふり、18文キックを浴びせようとした瞬間、とうとう伝家の宝刀ウエスタンラリアットが火を噴き、アンドレを場外に吹っ飛ばした。
場外のアンドレにマネージャーの男はサポーターに凶器を仕込ませる。リング上でハンセンはレフェリーにアンドレの凶器をアピールするが、逆上したアンドレはレフェリーにラリアット。もう収拾がつかない、止めに入った若手を蹴散らすアンドレ。
サブレフェリーが入ってゴングを要請。ハンセンがアンドレに反則ながら勝利した。
この試合にルールはいらない、2頭の野獣が戦うだけの試合だ。新日本エースのハンセン。最強のアンドレが死闘を繰り広げた、最高の試合だった。
だがそれからハンセンは全日本プロレスへ移籍、アンドレも往年の頃に全日本プロレスに移籍し対戦する機会があったが、もうそのころのアンドレは立っているのがやっとの状態でみているのも辛かった。
ハンセン対アンドレの全盛期の対決、あれほどの肉弾戦はその後二度と見ていない。
(文・GO)