プロレスを見はじめて10年が過ぎ新日本、全日本の2団体の時代から、他団体時代に突入していた。
選手の数も絶対数が不足しており、学生プロレス上がりや、格闘技経験者、さらにはド素人みたいな選手まで出て来た。昔だったら間違いなく入門できないような選手だ。
体の小さい選手も多く、柔道を10年以上やっていた僕でも軽く勝てそうな選手もいたくらいだ。そんな興行でもチケット代はそれなりに取る。もちろん客などは入るわけがない。そんな時代だった。
その中にPWCという団体があった。そこのメインが、以前にも取り上げたことがあるワカマツ、そして高野拳磁(本名:高野俊二)というレスラーだった。高野とワカマツの「宇宙パワー軍団」の抗争がPWCの路線だった。
新日本や全日本、UWFとくらべると最低のプロレスだった。この試合はバッタ品を取り扱うビデオ屋のワゴンセールで購入した。たしか300円くらいだった。
PWCの高野拳磁というレスラー
高野拳磁は新日本プロレスでデビューした大型レスラーだ。
スケールの大きなレスリングに期待されたが、ムラのある性格、練習嫌いなどがあり団体を転々とした。どこの団体でも期待されたがすべて裏切っていた。
体型を見ると練習をしていないのが一目でわかる。ただ、身体の大きさだけで試合をしていた。彼が最後に行きついたところは、PWCという兄のジョージ高野と設立した団体だ。
しかしPWC旗揚げの日、兄のジョージもいなかった。高野俊二と名も知れない若手だけだった。
高野拳磁・荒谷信孝vs宇宙パワーX・宇宙パワーXX
PWCの興行にもかかわらず会場は後楽園ホールだった。しかし場内は薄暗く、客もまばら。その分客の声援や、ヤジ、失笑も通る。
スーパースクランブル・ネイルバリケードマッチという、わけのわからないタイトルだった。有刺鉄線や、釘の打ち付けてある板がリング上や下にあった。
他の団体を真似したデスマッチである。高野拳磁の体は相変わらず練習しておらずだぶついている。パートナーの荒谷選手は長身でシャツを着ている。
方や宇宙パワー軍団。変な宗教団体の衣装のようなコスチューム、マスクで全身を覆ている。分厚い皮手袋をしており、その手に火をつけ、「これが宇宙のパワーだ!」と訳の分からないことを言っている。
いったいどこが宇宙人のつもりなのか。宇宙パワー?それを一生懸命演じる。ワカマツだった。
そして試合は勝手に始まる。両選手が入り乱れて戦っている。どちらがXか、XXかわからない。宇宙パワーは必死に場外の有刺鉄線に高野を落とそうとしてる。
もう一人の宇宙パワーは荒谷の首を絞めている。さらに有刺鉄線や釘板に押し付ける攻撃を繰り返す。
宇宙パワーの攻撃のたびにワカマツが奇声をあげる。一生懸命盛り上げようとする、プロ意識だ。
高野は有刺鉄線にぶつけられて、額がスパッと切れていた。その額の傷を指で押されると悲鳴をあげる。大流血だが、まったくプロレスらしい攻防はない。
相変わらず荒谷はずっとつかまっている。レフェリーの意味もまったくない。大流血の乱闘が繰り広げられる中、やっと高野にも反撃の機会が訪れた。チョップにキックで攻め立てる。
一方、荒谷も釘板の攻撃で大流血するが、パンチ攻撃で逆転しラリアットも見せる。会場内からは荒谷コールが見られる。高野も必殺のダブルニードロップ、荒谷はムーンサルトプレスを見せるがこれは自爆。初めて見せたプロレスらしい技である。
しかし、ワカマツの介入で高野は場外で首に紐をくくられ、動きが止まり、リング上では宇宙パワー2人と荒谷が戦っていた。一人が荒谷を肩車し、もう一人が火を出し、荒谷の顔面へ押し付ける。そのまま肩車バックドロップ。9分39秒、荒谷の3カウント負けだ。
相変わらず、大乱闘が繰り広げられる。見たこともない若手選手が乱闘を繰り返す。レスラーらしい若手選手は一人もいない。
PWCのプロレスは見世物小屋か
これはプロレスなんだろうか。チケットを買って、レスラーがいてリングがあるからプロレスなんだろう。
いったいなにが面白いんだろうとも思うが、つい見てしまう。なんだろう、この雰囲気。そうだ、子供の頃のお祭りに来ていた見世物小屋だ。まさしくPWCは見世物小屋だった。
流血ショーに火を使う宇宙人。ワカマツのマイクアピールも見世物小屋の呼び込みを彷彿とさせる。しかしPWCは見世物小屋同様にその後消え、高野俊二も消えていった。
(文・GO)