高校の空手道部に入部し、ちょうど1年間が経った2007年。3月に行なわれる春の選抜大会で僕は衝撃の試合を見ました。
春の選抜大会なので、全体のレベルも高校生最高峰。見応えのある試合ばかりでしたが、そんな中でも、その試合は格段、別次元のものでした。
ハイレベルの攻防戦が予想されたインターハイ準決勝
大会も終盤に差し掛かり、準決勝戦の試合でした。
一人はインターハイ、国体と制している絶対王者。その対戦相手も関東圏内の強豪高の対抗馬として優勝候補に挙がっている選手。
絶対王者はスピード感溢れる突き攻撃に加え、蹴りも早く、超攻撃型の選手。対する相手の選手はカウンター主体のようでありながら、一変して攻撃的なスタイルも見せることが出来るオールマイティー型の選手です。
このように、客観的に見てもハイレベルの攻防戦が予想されますが、当時の僕は絶対王者を倒せるのはこの選手しかいないと注目していたので、余計に印象に残っています。
いつもと違う絶対王者、勝負が動いたのは…
この試合が一番印象に残っている理由のひとつは、ハイレベルな攻防戦を目の当たりにしたことです。
試合が始まり、どのような展開になるかと思っていたら、両者見合ったままなかなか攻撃に移る動きがありませんでした。
空手道のルールを簡単に説明をすると、試合時間2分間のポイント制であり、試合時間内に、いかに有効打を与えられたかを競う競技となっております。
いつもの絶対王者は、生半可なカウンター使いには、反応されないほどのスピードで攻め、ポイントを取ってくる選手なのですが、この試合では対戦相手の技術をよほど警戒していたのか、なかなか攻めの動作に動きません。
もちろん、全く攻撃をせず見合っているわけではなく、お互いにフェイントを掛け合いながら攻撃の隙を見計らっての攻防が繰り返されていて、その中でも絶対王者は時間を掛けながらじっくりと2ポイントをとっておりました。
残り時間30秒過ぎたところでも対戦相手になかなか動きはありません。このままでは時間切れとなり絶対王者の勝利となってしまいます。残り10秒をきったところで動きがありました。
絶対王者が一瞬の隙を突いて攻めて来たところを大きく後ろに下がり始めたのです。こうなると攻め手側は前に出て更に攻め続けます。
後ろは場外の線がある状況、場外に出ることは空手道のルール上ペナルティーの対象になります。
そのとき、追われた選手が驚きの技を繰り広げたのです。
カウンターの蹴り!
ここでなんとカウンターの上段蹴りを決めたのです。
空手道はポイント制で、突き攻撃は基本は1ポイント、蹴り攻撃だと腹部を中心とした中段蹴りは2ポイント、顔面への上段蹴りは3ポイントとなっております。すでに絶対王者が2ポイント先制している状況で逆転が狙えるのは3ポイントの上段蹴りだけです。
会場からは大きな歓声が沸きましたが、審判は場外の判定。逆転の蹴りは幻となり、時間切れにより2-0で絶対王者の勝利となりました。
恐らく対戦相手の選手はハイスコアを競い合う試合展開にならないことを見込んで、最後の最後で試合をひっくり返すと同時に時間切れを狙ったのでしょう。結果的に、最後に放った蹴りのポイントは認められなかったものの勝負は紙一重、絶対王者が逆転されていた可能性もあります。
この試合を見て、僕はハイレベルの攻防戦のみならず、試合終盤の怖さを知ることになりました。「試合において、一瞬も気を抜ける場面はないんだ…」。
世の中には油断大敵という言葉があります。何事にも油断することなく、最後まで気を引き締めて取り組むことが大切だと、教えられる試合でした。
(文・空手マニア)