【剣道インターハイ予選】大将戦「一本」で掴んだ10年ぶりの優勝

高校3年生の最後の剣道インターハイ予選の試合が今も心に残っている。

私が通っていた高校をK高校としよう。K高校は昔からインターハイ常連校であったが最近は力が落ち、もう10年間もインターハイに行けてない状況だった。

ここ最近はN高校が優勝している。このときも、直前の関東大会で準優勝の成績をあげており、インターハイ予選も優勝確実と言われていた。

そして、インターハイ予選当日を迎えた。

団体戦で行われる剣道インターハイ予選

剣道の試合を見たことがない人のために、ルールについて簡単に説明しておこう。

試合は3本勝負。先に2本取った方が勝ちである。時間内にどちらも1本を取ることができなかったら引き分けとなる。

有効部位は頭の「面」、右手首の「小手」、腹部の「胴」、喉部分の「突き」の4つ。強い打突と充実した気勢が両立することで1本となる。試合時間は4分間で、もしそれでも勝負が決まらなかったら2分間の延長戦が行われる。

インターハイ予選は団体戦で行われる。団体戦とは一般的に5人制であり、1番目から先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順番でオーダーが組まれる。

チームの勝ち数が多い方が勝ちとなり、勝ち数が同じ場合は取得本数が多い方が勝ちとなる。取得本数も同数の場合は代表者による試合で勝った方のチームが勝ちとなる。

剣道インターハイ予選の当日

私は大将のポジションで試合に臨んだ。もし負けてしまったらこれが高校最後の試合になってしまう。これまでのどんな試合よりも気持ちを入れた。

1回戦、2回戦、3回戦と順調に勝ち進んでいったが、途中で思いもよらぬアクシデントが起きた。

中堅のM村が右手首の痛みを訴えたのだ。

M村はこれまでずっと中堅を背負ってきており、チームの要となっていた。右手首を確認してみると尋常ではないぐらい腫れており、折れているかもしくはヒビが入っている状態であった。

しかし、M村は出場を望んだ。私はそんな彼の姿にとても心を打たれ、今日は何がなんでも優勝してやると自分を奮い立たせた。

N高校との決勝戦

決勝戦は予想通りN高校との決戦になった。

K高校はこれまでにN高校と6回試合をしていたが、勝ったのはたったの1回だけであり、下馬評では完全にN高校が有利とされていた。

先鋒戦

お互いの礼をすませ、先鋒戦が始まった。

先鋒戦は互いに主導権を譲らない試合となった、先鋒は普通、スピードが速く手数がよく出る、切り込み隊長の役目を持つ。それだけにとても惜しいところもあればヒヤヒヤする場面もあった。しかし、3分を過ぎたあたりに均衡が崩れた。

N高校の先鋒が思い切った面を飛び込み1本になったのだ。そのまま4分を合図する笛が鳴り、先鋒戦は1本負け。

とてもいい勝負をしていただけに落胆も大きく、心の中でまた負けてしまうのかという気持ちが生じていた。

次鋒戦

次の次鋒戦は先鋒戦と打って変わって静かな立ち上がりとなった。互いにどっしりとかまえ合い、なかなか技が出ない展開であった。2分を過ぎたあたりからこちらの次鋒が攻めに転じた。N高校の次鋒は押されるがままに押され、防戦一方になった。

その1分後ぐらいだろうか。こちらの次鋒が相手の小手を完璧に捉え、小手ありとなった。

これに、会場が大きく盛り上がった。

そのまま試合が終わり、次鋒戦はこちらの1本勝ちとなり勝負はタイとなる。

中堅戦

そして中堅戦、M村の出番だ!

試合早々、相手に攻め崩されM村はなにもできないでいた。

よほど手首が痛かったのだろう。M村は竹刀を落としてしまい、さらにその竹刀を拾えずにいた。

私は思わず声が出てしまった。

「M村!ここで自分に負けたら一生悔いが残るぞ。意地でも負けるな。今までの努力の成果を見せてみろよ!」

M村が頷いたようにみえた。その後、M村は奮闘し、なんとか引き分けに持ち込んだ。

試合後、M村は私のとこに駆け寄ってきて言った、「後は頼んだぞ」。

副将戦

序盤から相手に押される展開となり、いつ1本取られてもおかしくない試合状況であった。

面を付けて待機していた私は、これはやばいなと心底焦っていた。押されるがままに4分が過ぎ、試合は延長戦に突入する。

ここで、副将が思い切った小手を打ち込む。これが完璧に部位に当たりなんと「1本」。副将は勝利を収めた。

大将戦

いよいよ私の出番となった。

試合スコアは2ー1となっており、私が引き分け以上で優勝することができる。

これまでリードする展開で私に回ってきたことはなく、なおさら緊張した。

そのせいもあり、はじめから相手に攻め込まれる展開に。内心ではどんどん攻めようと思っていても体は勝手によけて逃げてしまう。

負のスパイラル……。2分を過ぎたあたりで審判の「止め」(やめ)がかかった。

私があまりにも消極的だったために、反則を言い渡されてしまう。剣道では、もう一度反則をもらうと相手の1本になる。まさに絶体絶命の状況。

私は頭が真っ白になってしまい、この場から逃げ出してしまいたいとさえ思った。

そのとき、自分を応援するM村の顔が目に入った。「こんなところで弱気になってどうする。今日は絶対に優勝するんだ」と自分を奮い立たせる。

一進一退の攻防が続く。どちらも果敢に攻め込み、気迫と気迫のぶつかり合い。4分間では決まらず、延長戦に入る。

どちらも肩で息をし、死に物狂いだった。

延長戦が始まり少したった頃だった。私の頭の中でなにかがプツンと切れた。「今なら打てるんじゃないか」。本能的にそう感じた。

相手の面をめがけて思い切り打ち込む。直後、審判の「面あり」の声が聞こえ、ほんの少し間をおいて、その何倍も大きな歓声と拍手が耳に入ってきた。

大将戦は1本による勝利。チームの優勝が決まった。K高校としては実に10年ぶりの優勝、10年ぶりのインターハイ出場となった。

試合の後、少しだけ変わった自分

なぜ、この試合が心に残っているのかというと、チームで勝ち取った勝利だから。最高の仲間と最高の勝利を手に入れることができた。

それまで、私はどちらかというと引っ込み思案で人の目を気にして行動するタイプだった。しかし、この試合を経験した後は、自分からなにか物事をはじめたり、自分から率先して仕事に取り組むようになった。

大事な場面で勝利をおさめ、自信につながったのだと思う。高校3年生のインターハイ予選は、今も私にとって特別な思い出だ。

(文・ジメサギ)