高校は柔道の有名私立に入学し、全国大会出場を目標に毎日練習に明け暮れていました。
学年が1つ上のある先輩が私をよく可愛がってくれました。練習では、全力でぶつかってきてくれて、ヒートアップしたりすることもありましたが、練習が終わると笑顔で話しかけてくれたり、技のアドバイスなどをしてくれる面倒見の良い先輩でした。
中学生の頃から全国レベルで活躍している先輩は60kg級でした。私はというと81kg級。自分よりも20kg以上も軽いのに技の威力は、重量級の技に匹敵するぐらい強かったのを今でも覚えています。
その先輩と2年間練習を共にして私が高校2年生、先輩が高校3年生になった時、先輩の最後のインターハイ県予選の決勝で見た試合が脳裏に焼き付いて忘れられません。
柔道インターハイ県予選で先輩が優勝!
柔道のルールに関して、細かいところまで把握している人は少ないと思いますので簡単に説明しておきます。
柔道は、お互いに襟と袖を持って技の攻防を行うスポーツです。技によって相手を背中から勢いよく畳に倒すことが出来れば一本となり試合終了。投げた時に背中が畳に付かず尻餅をついたり、身体の側面から畳に倒れたり、勢いが弱かったりすると技ありを宣告されます。
この技ありを2回取ると合わせて一本となり、試合終了となります。技をかけなかったり逃げたりすると教育的指導というものを与えられ、これが3つになると反則負けとなります。試合時間内で決着がつかない場合には、時間無制限の延長戦を行います。ルールはたびたび改正されますが、今現在のルールではこのようになっています。
先輩のインターハイ県予選決勝戦の対戦相手は、私たちの高校のライバルである私立高校の選手でした。相手選手も中学生の頃から全国レベルで活躍している有名選手でした。
先輩と相手選手は、高校入学前から何回も対戦しており、技に入る前の癖やどんな技をやるかなどお互い手を知り尽くしていました。試合は、長引くことが予想されました。
試合が始まると、終始先輩が優勢に立ち開始2分で相手は、技すらかけることが出来ず教育的指導を2つ与えられました。この教育的指導を与えられた直後先輩の華麗な背負い投げが見事に決まり、相手は畳に背中から強く叩きつけられて一本! 先輩の優勝となりインターハイ出場が決まりました。
先輩の勝利に涙した理由
実は、先輩はこのインターハイ予選の2週間前に膝の靭帯を傷める大怪我をしていました。その大怪我をさせた人物が私です。
高校生活最後になるかもしれない試合の前に私はとんでもないことをしたととても後悔しました。しかし、先輩は「これぐらいハンデがあった方がいい、気にすんな! 古賀選手だって怪我しながらオリンピックチャンピオンになっただろ? 任せとけ」と私を慰めてくれました。
先輩は高校に入ってからライバルである対戦相手に1度も勝つことが出来ず悔しい日々を過ごしてきました。それなのに、膝の怪我をさせてしまって状況は、益々不利になると私は考えていました。
先輩も本当は不安だったと思います。それなのに、周りには悟られないように強気に振る舞う先輩は、私の憧れでした。
怪我をした日の練習の後、道場の外で泣いている先輩を見てしまいました。私は、先輩が優勝できるように祈ることしかできませんでした。そんな中インターハイ予選の決勝戦まで全員を秒殺で倒し、見事決勝戦に進出しました。
実際のところ柔道なんて出来ないぐらいの大怪我だったので内心驚いていました。決勝戦も圧倒的な強さを見せつけ全試合オール一本でインターハイ出場を決めました。私は、自分以外の人の試合で初めて涙するほど大喜びしました。
(文・りょー)