小さいとき私は極真空手の道場に通っていたのですが、体が小さかったので不利を手数で補うためにひたすら前に出てワンツーロー・ワンツーローと繰り返すように教えられてきました。
相手より長く耐えれば勝てる耐久マラソンレースのような試合は、当時の私にとって苦行でしかありませんでした。
その時の動きが身に染みていたので、中学生になって伝統派空手を始めたときに周りの同級生のスピードについていけませんでした。
全く格闘技をやったことなかった同級生にも追い抜かれていったのです。情けなくなりました。
そこで私は勝つために独自に秘密練習をすることを決意しました。
拳児をヒントに「震脚」の練習
同じ先生から習っているのだから、先生から教えられたことを真面目に練習するだけでは他の生徒には勝てない。
そう考えた私は、当時読んでいたマンガ「拳児」に活路を求めたのです。
中国拳法のひとつ、八極拳に「震脚」っていう技法があるのをご存知でしょうか。
とにかく、すごい踏み込みというイメージの技です。
ユーチューブで震脚の動画をチェック
YouTubeを検索し、出てきた動画のなかからそれっぽいやつをいくつか選んで共通点を探しました。
当時中学生だった私が考えた練習法は次のようなものです。
まず、立ちます。立ちかたは適当です。
左足のカカトを上げます。それでつま先を軸にカカトを外にむけるようにしていきおいよく着地します。
これだけです。
この動きは野球のピッチャーもよくやっています。実際の震脚に比べるとコンパクトな動きですが、勢いよく踏み込むという特長は残しています。
踏み込みの練習の成果は?
このような踏み込みの練習を時間を見つけては繰り返していました。
その結果、当初の目論見通り踏み込む速度が上がったと思います。しかし、膝と足首を悪くしました。
また副次効果として組み技で崩すのが上手くなりました。
膝を悪くするのは分かるとして、なんでこんな練習で踏み込みが速くなったのでしょうか。
それは多分、重心の瞬間移動ができるようになったからだと考えられます。
左足の踵を上げて、グリッと回して着地する。
このとき最初に右足の上、骨盤の右側に乗っている体重が、勢いよく着地すると左に移動します。
それで着地し終わったらそれ以上左に行けないので壁にぶつかったように急停止します。
たぶん野球のバッティング練習で左側に壁を作れと言われるのと同じ動きなのだと思います。
急発進して急停止したわけです。
それで更に延々続けた結果、高校生まで合わせても誰にも負けないくらい身のこなしが速くなりました。
この練習を暇なときに左右をバッタンバッタンと繰り返すことによって、骨盤の左右を移動する重心を意識できるようになったのが大きかったと思います。
慣れてきたら踵を上げなくても重心を動かせるようになり、まるで骨盤の重心がピンポン玉のように軽快に跳ねるような感覚が得られました。
身のこなしが軽くなったことで、相手との駆け引きも上手くなりました。
以前に、武井壮さんがテレビで、「一流の選手は一秒間を何分割にも細かく認識している」と言っていましたが、動きが変わると判断力も変わるようです。
骨盤のピンポン玉感覚は、膝や肩でリズムを取るよりも速く細かくリズムを刻めるので、相手が1回判断する間に3回判断できているように感じられました。
(文・千里三月記)