プロレス界に初代ダイガ―マスクがデビューして1年がたった当時は空前のタイガーブーム、新日本プロレスブームである。
あらゆるマスコミでタイガーマスクを紹介し、プロレスに興味のない方にも知られる存在になる。ダイナマイトキッドをはじめ、たくさんの好敵手が登場。
そんななかでなんと「ウルトラマン」が登場した。
特撮の世界からウルトラマンがプロレスのリングに!
僕はプロレスも大好きになっていたが、実は子供の頃からの特撮ヒーローファン。仮面ライダーにウルトラマンシリーズはすべて見ていた。
なかでもウルトラセブンは特に大好きだった。余談だがウルトラセブンのモロボシダン役の俳優の出身地は隣町であり、N78星雲ではなかった。
新聞のテレビ欄でタイガーマスクの対戦相手がウルトラマンとなっているのを見たときはワクワクした。
金曜日の午後8時。テレビ前の特別リングサイドは僕と兄、弟はその後ろの指定席A、父はソファー上の2階席で観戦だ。
珍しく一家4人がテレビの前に揃う。ウルトラマンにはさすがに父も興味を示したらしい。母は僕の再三による宣伝広報の活躍もむなしく、別室でたぶん太陽にほえろでも見ていたと思う。
今はなき、昭和の一家団欒(だんらん)だ。
ヒーロー対決!タイガーマスクvsウルトラマン
テレビにウルトラマンのテーマが流れた。「むねーにつけーてるマークはりゅーせー」、待ちに待ったウルトラマンの登場だ。
実写と違ってすでにウルトラマンに変身している、当然空は飛ばず走ってくる。実写のウルトラマンより少々太っているがメタリックのコスチュームはかっこいい。
続いてタイガーマスクの登場!タイガーマスク対ウルトラマン。デパートの屋上のキャラクターショーでも実現不可能なカードが始まった。
緊張のせいか動きが固いウルトラマン
緊張しているのかウルトラマンの動きが固いようにも感じた。やはり、今までタイガーマスクの試合を毎週見ていると、強いレスラーや弱いレスラーがなんとなくわかってきた。
ウルトラマンには失礼ながら全く強さを感じなかった。ウルトラマンが弱いのかタイガーマスクが強すぎたのかはわからないが、力の差が大きすぎた。
十字に手を組んだポーズ以外にウルトラマンの見せ場はなかった。動きの固さもあるが、身体の固さもみられた。他のメキシカンのようなスピードやキレもない。
スペースフライングタイガードロップで盛り上がる
また、プロレスの流れも悪くドタバタしている。とにかく試合がかみ合わない。試合時間は3分以上過ぎてるがウルトラマンはあいかわらずカクカクバタバタ動いてる。
見ていてもつまらないと父は風呂へ行ってしまった。僕もウルトラマンの動きにイライラ気味だった。実写ウルトラマンのファンでもあり、このウルトラマンのパチモンにはがっかりどころか、怒りすら感じた。
タイガーもイライラしているように見えた。試合は相変わらずの展開でウルトラマンが場外に落ちた。いつものトぺスイシーダー、いわゆる人間ロケットかと思った瞬間、タイガーはロープに走りリング上で側転しながら場外のウルトラマンへダイブした。
兄も僕も立ち上がって手をたたく。秘密兵器のスペースフライングタイガードロップである。その後はリング上でジャーマンスープレックスで無理やり試合を終わらせた。もうウルトラマンはよれよれである。
ウルトラマンの敗戦はテレビの最終回のゼットン以来だった。結局、入場までがピークであった。
今なら実現不可能な試合
ウルトラマン、僕がプロレスを見始めて1年弱、究極のパチモンであった。名前に知名度があったため忘れることのできないレスラーになってしまった。
後に知ったことだが、このウルトラマンは急ごしらえのマスクマンではなく、元アマレス・グレコローマンの実力者で、メキシコでは人気レスラーだったそうだ。
今考えるとウルトラマンは円谷プロの許可を取ったのだろうか。テレビ朝日でウルトラマンのテーマを流すことは問題にならなかったんだろうか、と今になって考えてしまう。
きっと今なら実現不可能だった試合だと思えば貴重かもしれない。
(文・GO)