新日本プロレスの東京ドームでデビューした日本人レスラーと言えば聞こえは良いが、彼は違った。
どこへ行ってもブーイングを浴びた。やることやること罵声を浴び失笑される。時代が早すぎたのかもしれない。
サンダーストーム北尾光司。
恵まれた巨体、若さなど本当に真面目に練習をすれば世界でトップを取れた器に違いなかった。
北尾光司、相撲界からプロレスへ
北尾光司の行動はワイドショーの格好のネタだった。相撲で横綱の地位まで上り詰めたが、究極のお坊ちゃんだという話しだ。
会社社長の一人息子として育ちわがまま放題。相撲界でも女将さんに暴力をふるって飛び出したのだとか。
プロレスファンや相撲ファンでなくても有名な存在だった。相撲の世界にいながら、趣味はパソコンやファミコン。モデルガンで付き人などを打って楽しんでいるという。
そんな練習嫌いの北尾光司がプロレスの世界に入った。なんでも「スポーツ冒険家」だという。なんだそれは?とさっそく失笑してしまった。
北尾光司のデビュー戦
北尾光司のデビュー戦は東京ドームだった。異例中の異例だ。そして対戦相手は、当時、実力人気トップのクラッシャー・バンバン・ビガロである。
ビガロが先に入場して、いよいよ北尾光司の入場だ。サングラスをかけ、リベット付きの黒のジャンパーに黄色いタイツ。罵声や失笑で会場は賑わう。
なんだこいつは? 正直なことろ、これが第一印象だった。
新日本プロレスの若手のデビューは黒タイツ一枚が普通だ。トップロープを飛び越えリングインし、ビガロに指をさして挑発する。会場内は大ブーイング。もう彼のレスラー人生は決まったようなものである。
ビガロも負けていない、リングコールの際は相撲の四股を踏むポーズで北尾を挑発する。一方、北尾はハルク・ホーガンを真似て、タンクトップを破る。すると、たるんだ腹が飛び出した。
北尾光司vsクラッシャー・バンバン・ビガロ
ゴングが鳴った。
大ブーイングとビガロコールがこだまする。北尾は右ひじを引き、左手を前に突き出した変な構えでビガロを挑発する。
失笑がもれる東京ドーム。正直変な格好である。なんだあのポーズは? 空手でも相撲でもプロレスでもない変なポーズ。時折、北斗の拳でも真似たように「シュ、シュ」と声を上げる。
ビガロをにらみつけ、大声をあげる北尾。まさしく弱い犬ほどよく吠える状態だ。睨みあいから組んだ瞬間、ビガロの巨体をアームホイップで警戒に投げ飛ばす。
おや、なかなか良い動きじゃないか。
ビガロのヘッドバット攻撃には表情をゆがめるも、ボディスラムで投げ飛ばす。そしてまた、変なポーズに。
ビガロはやっていられない様子の表情で場外エスケープ。会場内は異常な盛り上がりだ。ビガロはリングインするとヘッドバットで反撃し、場外へ北尾を投げ飛ばす。かなり危険な体勢で場外に落ちる北尾。相撲ならここで決着が着くのだが、今日はプロレスだ。
ビガロペースで試合が進む。なにもしていない北尾は、もうスタミナ切れのようだ。北尾は相撲出身だがミドルキックで反撃を試みた。左右のキックは打てず、同じ方向のみ。そしてへんてこなラリアット。
またしても大ブーイング…何をやっても罵声を浴びてしまう。バテバテながら、ミドルキックやエルボーで攻める北尾。レスリングは全く出来ていないが力はあるようだ。
ビガロを持ち上げ(ビガロが自ら飛び上がってくれたようにも見えたが)バックフリップで後ろに放り投げ、北尾は自らロープに走った。
しかし、走る方向を間違えたのか、再度、別の方向にもう一度走り倒れているビガロにギロチンドロップ。そして3カウント入ってしまう。大ブーイングの中、ガッツポーズの北尾。
プロレスの試合を数多く見たが、この試合に関しては一言「しょっぱい」。せめて、黒タイツ一枚で地方の第一試合で出場すれば、ここまで酷評されなかったかもしれない。
そんな北尾光司も2019年、55歳の若さでひっそり亡くなられた。ご冥福をお祈りいたします。
(文・GO)