私が、剣道をし始めたのは小学校4年生(1980年代)の時でした。きっかけは、運動不足気味だった私を見るに見かねて、両親が近所の町道場の入門を勧めきたことでした。
当時は、空前の剣道ブームで、私が通っていた町道場にもたくさんの子供や大人が毎日のように稽古に励んでいました。
社会人の剣道の目的は「いかに剣道をするか」
稽古は非常に過酷なもので、けっして軽くはない防具を着けて2時間動きっぱなしの時もあります。そういった稽古を何とか耐え忍ぶことで、運動不足を解消することは当然ですが、精神的にも現在の基盤になるような丈夫な心ができた気がします。
社会人になった現在では、幼かった当時の厳しい稽古の積み重ねがあったおかげで、なんとか剣道を続けることができています。社会人の剣道は、勝敗ではなく「いかに剣道をするか」という、武道に通底する課題を中心に取り組むことが多いと思います。私も、六段を目指して稽古に明け暮れる日々を送っています。
同じ技でも過程が異なる出頭小手
剣道には、いろいろな技があります。今回は、その中でも私が最も得意としている「出頭小手(でがしらこて)」について書きたいと思います。
出頭小手は出小手(でごて)とも言いますが、相手が面を打ってくるその瞬間に相手の右小手を打つという技です。
ひじょうにシンプルで、かっこいい技ですが、地方大会のみならず全日本や世界大会でもよく見かけるオーソドックスな技のひとつです。私も、小学生の時に出頭小手がよく決まる時期があり、大会で上位になったことがあります。
この技をするにあたって、とくに子供に多いのですが、相手が打ってくるのを見てから出頭小手を打つことがよくあります。技としては成立しているのですが、成長してだんだん動くスピードが速くなってくると、相手の技が出るところを見てからでは出頭小手は打てず、相手の技が先に決まってしまいます。
スピードが速い技に対して、どのように対応していけば出頭小手を打つことができるでしょうか。
大人の出頭小手が偶然ではない理由
ここで重要なことは、技を出す前にあります。
剣道には、「攻め」という概念があります。これは、簡単に言うと相手よりも優位に立つように気持ちや技をぶつけることです。
攻めを理解して実践することで、相手の技を引き出すことができるようになってくるのです。一味違う出頭小手は、この「攻め」を使います。
大人の出頭小手は、構え合ったところから攻めを出し、相手が攻めに反応して面を打とうとしたところを打つという技なのです。子供には攻めがないことが多いため、打ち掛かったら当たったというような偶然や勘に頼ったものになってしまいます。
見た目には同じように見えますが、大人が繰り出す出頭小手と偶然当たる出頭小手とは、決まるまでの過程が全く異なるのです。
出頭小手は「攻め」の段階から練習すべき
よく出頭小手を稽古するときに、まず相手に面を打ってもらって、その面技にあわせるようにして小手を打つ稽古をしている人がいますが、それでは不十分なのです。
なぜなら、出頭小手のポイントは、いかに相手にあらかじめこちらから仕掛けたタイミングで打ってきてもらうかにかかっているからです。
出頭小手を習得するには、打ち方だけでなく技を出す前の攻めから稽古することが重要です。相手よりも先に間合いを詰めて攻める稽古をすることからはじめます。
そして、相手がその攻めに反応してくれるようになり、出てくるところが見極められるようになると出頭技が決まる確率が高くなってきます。
こうした稽古を経た出頭小手が決まるようになると、試合でも勝てるようになってきます。実は、審判員の方もレベルが高い試合ほど、竹刀が当たったかどうかだけでなく、技が出される前の攻防をよく見ています。
どちらが攻めているのか、どちらがその攻めに反応しているのか、そういった要素も審判をするうえで重要なのです。「当たってるのになぜ一本にならないのか」という意見がよくありますが、攻めを理解できると有効な一本がわかるようになり、試合の見え方も違ってきます。
(文・波之平)