システマといって、「ああ、あのロシアの軍隊格闘技か」と分かる方は、かなりの格闘技通と言えるでしょう。
私がシステマを習い始めたときは東京と大阪でしか練習できない幻の格闘技で、「システマの練習生です」と言えば、「歯磨き粉ですか?」と聞き返されるのがオチでした。
私の師匠はそんなシステマを、日本に根付かせたいという熱い気持ちで指導をしてくださり、練習生の私たちもいずれはシステマがメジャーな格闘技になると信じて、時には体育館の一隅で、時には深夜の公園で練習に励んでいました。
システマは戦場の体術
システマについて簡単に説明します。システマはロシア軍特殊部隊スペツナズで教えられていた軍隊格闘技です。
そのルーツは、ロシアの民族格闘技にあります。戦場体術なので、反則技はなし。いかに素早く敵を制圧できるか、がシステマのコンセプトです。
そして、最も大きな特徴は、型や技が一切存在しないことです。戦いの最中に自然に出た動き、それがベストという考えのもと、一切の型や技を排した武術です。
分厚い防寒着の上から効かせる「ストライク」
このシステマ、ロシアの民族格闘技であることから日本や中国の伝統武術とは異なる戦い方をします。
年間を通して凍土に覆われるロシアの大地。そこに住む人々は必然的に分厚い防寒着を着ています。そのような防寒着の上から通常のパンチやキックをしても効果はあまりありません。
どうすれば分厚い防寒着の上からでも打撃を効かせられるか、そのロシア人の命題の答えがストライクです。ストライクは私の得意技でもあります。
ストライクの威力は?
ストライクというのは、特定の技名というのではなく、パンチやキック、肘打ちや頭突きに至るまで、打撃の総称を指します。
上記の通り、技も決まった構えも何もない格闘技なので、このようなあいまいなストライクといった名称とされるのです。
そして何より注目されるのがストライクの威力です。私が師匠のストライクを初めてボディに喰らったときは、地面に倒れこみしばらくは起き上がれませんでした。
その感触はというと、直接胃や肝臓に手を突っ込まれて握られた感覚と申しましょうか。ストライクを喰らうと、まず立っていることができず、次に戦闘意欲が失せてしまいます。
今まで空手家やボクサーの打撃を経験しましたが、ストライクの威力は既存のどの格闘技の打撃にも当てはまりません。
ストライク成功の見極め方
システマは上記の通り、技や型はもちろん、なんの体系だった練習法もありません。師匠にストライクを撃ってもらい、その感覚を反芻しながら自分で正解を見つけなければなりません。まさに、職人技の世界です。
しかし、「ストライクが成功したか」の基準がないわけではありません。その成功基準とは、「撃たれたときに、相手が真後ろに飛んだか」です。
自分のストライクが成功した場合、相手方は香港のアクション映画で使われるワイヤーワークのように、誇張ではなく後ろへ吹っ飛びます。
逆にストライクが失敗したときは、パンチやキックを撃った自分に威力が跳ね返り、いわゆるむち打ちのような状態になります。だから、ストライクというシステマの技は撃つ側も撃たれる側も危険なものといえます。
そういった意味で練習は繊細なものにならざるを得ず、どちらかといえば大人しく自分の作業に没頭する人がストライクという技の習得、ひいてはシステマ習得に向いているといえるでしょう。
(文・トリエラ)