自分は試合までに約10Kgの減量を行う。普段は75Kgで試合は65.8Kg以下のフェザー級で試合をしていた。
計量が終わってから試合までに5~7Kgは戻すことがきた。これでコンディション良く動けていたので自分には合っている方法だと思っている。
体のことなので個人差はあるものの、食べてしっかり練習。体重の管理。これでいい減量ができるはず。
食べない減量を行ってしまうと質の良い練習もできなくなるし、体のコンディションも悪くするので絶対にしない方がいい。
ここでは自分が行っていた具体的な減量方法と、なぜそれが必要なのかについて話してみよう。
総合格闘技の減量は2段階で考える
試合の1週間前までの減量と、試合直前の減量ではやるべきことが異なる。
試合1週間前までに約6Kg落とす方法
減量を開始するのは試合1カ月前で、食事ではお菓子などの間食はやめるが三食はきっちり食べる。
もちろんバランスの良い食事でコンディションを崩さないように心がける。1日に何回も体重を計り管理して、それに合わせて炭水化物を少し減らしたり運動量を増やしたりする。
よく炭水化物を完全に抜いたり、塩分を抜いたりして減量する方法を聞くが、体のコンディションは間違いなく落ちるし、せっかく試合前の追い込み練習が必要な時にエネルギー不足でいい練習ができなくなってしまうので、おすすめしない。
間食をやめる。三食バランス良く食べる。体重を事あるごとに計って管理する。これだけで試合1週間前の時点で6Kg程減らすことができる。なぜ減らせるかというと、食べる量は少し減っている中でいつもより多く練習するから。これで脂肪は落ちていく。
そして事あるごとに体重を計ることにより、これをしたらこれくらい体重が増える、減るというのがわかるようになり、食事や運動で上手くコントロールできるようになる。
試合前日に約4Kg落とす「水抜き」とは
この状態を数日キープし、計量前日に水抜きで約4Kg落とせば減量完了だ。
水抜きは文字通り体の水分を抜くことで、ひたすら汗を出すつらい作業だ。ただこの水抜きにはメリットがあって、脂肪と違って水は飲めば戻るので4Kg落としても計量後4L水を飲めば計算上は4Kg戻る。
つまり、水抜きによる減量幅が大きいほど、より多くの体重を戻すことができるということ。ただし、水抜きは脱水症状の危険があり、格闘家の死亡事故もある程危険な行為なのでやる場合はしっかりと勉強して誰かに付いてもらってやらなければならない。
ちなみに水抜きはサウナが早いが、暑くて具合が悪くなってしまうことがあるので布団に包まってひたすら耐え忍ぶ方法が最近では流行っている。
総合格闘技では、なぜ減量が必要なのか
では、なぜこのような減量をやる必要があるのか?
減量した方が動きも軽くなり、見た目も良くなるといった多少のメリットはあるが、実際はナチュラルの体重で闘うのが1番強いのは間違いない話だ。それでも減量するのには理由がある。
好きな階級、強い人があまりいない階級、闘いたい人がいる階級に合わせる為、というのもあるにはある。しかし、本質的なところから言うと、みんなが減量するから減量しなければいけない、減量しないと不利になってしまう、というのが大きい。
総合格闘技の場合、アマチュアの試合は基本試合当日の計量なのであまり無理な減量をする人はいないが、プロの試合だと試合前日の計量なので大幅な減量をする選手が多い。
実質10キロ重い選手と闘うのと同じことに
総合格闘技では10Kg程度の減量は当たり前で、20Kgくらいの減量をしている選手もいると聞く。例えば65.8Kg以下契約のフェザー級だと普段75~80Kgあたりの選手が減量して試合をする階級になっている。
もしも自分が減量をやめてナチュラル体重の階級で試合をするとなると、その相手は普段10Kg以上自分より重たい相手ということになる。しかも前日計量なら試合当日には10Kg近く戻せる為、実際に10Kg重たい相手と闘うことになる。これではパワーの差は歴然だ。
階級制の競技のはずなのにルールに収まる範囲でここまでのハンデができてしまうのだ。このような不利な状態になることを防ぐ為に減量をする。
「そんなの減量禁止のルールにすればいいじゃん」
と思うかもしれないが、仮に減量を禁止にしたとしても、ナチュラル体重はいくらでもごまかせてしまう。隠れて減量する選手も出てくるだろう。
だから総合格闘技では、減量しなければ闘っていけないというのは常識になっている。もちろんナチュラル体重で闘っても勝てるようにするのが最強なんだとう気持ちもある。しかしそんなことばかりは言ってられない事情がある。
(文・shu.co)
格闘技と水抜きの切っても切れない関係
計量はもともと、対戦する選手の体重を同じにすることで、どちらが有利または不利ということなく、同条件で勝負できるようにするためのものだったはずだ。
しかし、計量から試合までの間に時間のある前日計量では、いかに体重を元にもどすかがひとつのテクニックとして確立した。
その結果、計量時の体重は同じでも、試合時にはまるで別階級の選手同士の闘いのようになることさえある。
果たしてこれがフェアーな勝負といえるのか?という問題に加え、選手の健康、ときには命さえも脅かすことがある。
格闘家ならなんとしても勝ちたいと思うのは当然のこと。ルールで許されていることなら何だってする覚悟だ。
それは対戦相手も同じ。相手も限界ギリギリの調整をしてくるだろう。
そうなれば、有利になるためにというよりも、不利にならないために過酷な減量はエスカレートせざるを得ない。
水抜きを禁止したONEチャンピオンシップ
筋肉や脂肪は一度落としてしまうと元に戻すのに時間がかある。しかし、水分は別。
一時的に体の中の水分を極端に少なくして体重を減らす。そして、計量が終わったら、体の中に水分を蓄えて体重を増やす。
これが水抜きと呼ばれる減量方法だ。
塩分や糖分は水分を体に引き込む性質があるので計量前の摂取を控え、計量が終わったらこれらをリカバリーしていく。
塩分や糖分をどのような食品からとるのか、どういう順序でとるのか、などの秘伝のレシピがあると聞いたことがある。
水抜きによる減量は、総合格闘技の一部となっていた。
そうした中で事故が起きる。
2015年12月、マニラ大会(フィリピン)の試合を控えた21歳の中国人格闘家・楊建兵(Jian Bing Yang)が心臓発作で病院に運ばれ翌日に死亡。
大会を主催するONEチャンピオンシップの対応は早かった。水抜きによる減量禁止を発表すると、次に紹介するような方法により、選手たちに水抜きによる減量を強いることのない新しい計量方法への移行を進めた。
また、脱水による減量の危険から選手を守るようにと、世界的な総合格闘技団体であるUFCとベラトールにも呼び掛けた。
水抜きはバレる?判定方法とは
ONEチャンピオンシップでは次のような対策をとっている。
- 選手は専用ウェブポータルに日常体重を記録する
- このデータと、ランダムに行われる体重チェックで階級を設定
- 試合から8週間未満で階級を落とすことはできない
つまり、階級は選手の日常的な体重をもとに決定され、試合直前の急激な減量ができないようになっている。
試合の週には毎日体重のチェックがあり、さらに到着1日後とイベント開始3時間前に尿比重の検査が行われ、どちらか一方でも引っかかると失格になる。
尿比重の検査とは、尿中の水分と水分以外の物質の割合をチェックするもの。水抜きによる減量を行っているとこの数値が高く出て、脱水状態であることが明らかになる。
もし、こっそり水抜きで体重を減らそうとする選手がいたとしても、尿比重の検査でバレてしまう仕組みだ。
この水抜き禁止の措置によって、選手はこれまでよりも重い階級で闘うことになる。しかし、それは相手も同じ。不利になるわけではない。
これまで水抜きありきで調整しなければならなかった選手は、その必要がなくなった。その分、技術やパワーを高めるといった格闘技そのものの練習に集中できるともいえる。
急激な体重の増減がなければ、試合当日のコンディションもキープしやすい。
観客は、ベストな状態の選手同士の白熱した試合を見ることができるというわけだ。
このように見てみると、水抜きによる減量を禁止する方針にデメリットはないように思える。
あるとすれば、水抜きが飛びぬけて上手だった選手が勝ちにくくなる、ということくらいか。
あとは、運営側が契約選手の状況をかなりきめ細かく把握している必要があり、その手間とコストが増えるのは確かだ。
ONEチャンピオンシップに続き、今後、水抜きによる減量を禁止する団体は現れるのだろうか?