小学生の頃からプロレスファンで橋本真也や高田延彦の蹴り技に憧れ、自己流で蹴りの練習をしていた。
蹴り技を極めるために大学空手部に入部
蹴り技を極めるべく大学で空手道部に入り、本格的に打撃系格闘技を始めた。大学のレベルはシード校には必ず負けるが、それ以外の大学には70%位の確率で勝つ程度だった。
トーナメントでは2回戦か3回戦でシード校に当たるので、どの大会でもベスト32かベスト16くらいで敗退していた。
部員の大部分が大学から空手を始めているが、柔道や剣道の経験者も多く、試合に勝つこと以上に強さを追求することにプライオリティを置いて日々切磋琢磨していた。
私自身もプロレス仕込みの蹴り技を磨くべく、部活の練習時間以外にも授業の合間に道場でサンドバックを蹴ったりすることで徐々に力強い打撃ができるようになってきた。自分の中で着実に強くなっている実感があり、早く試合をしたいと思うようになっていた。
伝統派空手の試合でUWFのように戦いたい!
今でこそ総合格闘技の堀口恭司や新生K-1の山崎秀晃のように伝統空手ベースの選手がプロの世界で活躍しているが、当時は実戦で使えない格闘技という印象をもたれていた。
「寸止め空手」とも言われるが、実際にはきちんと相手にヒットさせないとポイントにならないし、多くのフルコンタクト空手で禁止されている顔面への拳での攻撃が有効であり、それなりにハードな競技であった。
当時のルールでは、顔への蹴りや足払いで倒した相手への攻撃は一本、腹への蹴りや顔・胸への突きは技ありになる。技あり2回で一本、一本2回(=技あり4回)で勝利が確定する。
試合時間は2分で時間内に一本2回分のポイントが取れない場合は終了時点でポイントがリードしていた方が勝ち、同ポイントの場合は延長戦となる。
高田延彦vs北尾光司を見て以来ローキックの練習をしてきたことを活かしたいと考えていたが、下半身への蹴りは反則であった。
そこで、ルールで認められている足払いに見せかけて膝の下を蹴る技(近年総合格闘技で流行しているカーフキックのような蹴り)で下に意識を向けて、上段回し蹴りで華麗な一本をとって伝統空手ルールでもUWFみたいな試合がしたいと考えていた。
空手の初試合で蹴り技は出せなかった
入部してから8か月後、初めて対外試合に出場する機会が訪れた。経験がない分、怖いもの知らずで負ける気がしなかった。
開始早々、逆突きワンツーで突っ込んで行き、左上段突きで技ありをとれた。完全なビギナーズラックだった。
調子に乗って同じタイミングで相手の懐に飛び込んでいったが、その後は簡単にカウンターの突きを顔面に合わされ、4つの技ありを取られてあっさり負けた。
重点的に練習してきた蹴り技をほぼ使うことなく負けたが、技術が未熟なため子供の喧嘩と同じで手を使った攻撃しかできなかったのだ。
初めて格闘技のカウンターを経験
打撃の試合に出た興奮と負けた悔しさで試合が終わった直後は痛みを感じることはなかったが、昼食でおにぎりを食べた時にアゴが痛くて噛むことができず涙がでてきた。
格闘技をやってる人のカウンター攻撃は効くんだなと妙に感心した。その後、数十試合、伝統空手、フルコンタクト空手、ムエタイの試合に出場して勝ったり負けたりを繰り返してきたが、ポイントやダウンをとられるのは相手のカウンター攻撃であることが多かった。
若手の頃に試合後暴れるスタン・ハンセンのウエスタンラリアットを小橋建太が受けまくったことで自らもラリアットを習得したように、格闘技キャリアの後半戦では自分もカウンターのパンチやキックで相手を倒すことができるようになってきた。
伝統空手はガードの概念がなく、間合いを取りながら早い踏み込みで相手と技を出し合い続ける必要があるため、他の格闘技に応用できるカウンター技術を身につけることができる競技であるといえるかもしれない。
(文・K-沢井)