もう20年以上前のこと。私は17歳のときにボクシングでプロデビューしました。
地方にある田舎の小さなジムでしたので興行をやるのに人数合わせやジムの都合もあったと思います。
私がいたジムは日本ランカーが1人、A級ライセンス2人、B級ライセンスが3人、C級ライセンスが2人いましたが実際、試合を行い練習に来ていたのはランカー含む数人でした。
高校生でボクシングのプロテストを
もともとプロになる予定などなかったのですが、高校生の頃、急に言われて一緒に入門した先輩とプロになることになりました。
当時、私は55kgありましたが会長に憧れのリカルドロペスと同じ階級(ストロー級、現在のミニマム級)だと言われて、2つ返事でOKしました。
テストは筆記と実技があり、筆記は基本さえ抑えていれば受かる問題です。実技は強い弱いではなくボクシングの基本が出来ていれば受かる感じでした。
テスト当日は緊張しましたが無事に乗り越えて合格と聞かされた後、唐突に言われました。
「来月、試合あるから。」
1カ月で7キロの減量スタート
こうして普段55kgの体重からミニマム級の47.62kg以下まで、約7キロ近い人生初の減量がスタートしました。
減量法は諸先輩方に教えてもらいました。
サウナスーツを着て練習し、ご飯の量を少しずつ減らして減量する方法。多分、当時のごく普通の減量法でしたがかなりキツく根を上げそうになりました。
体重が減って行くたびに何となくふわっとした感じから始まり途中から力入らず、自分の体がとても重く感じ、普通に歩くのも億劫になっていったのも覚えています。
試合10日前までに残り5キロに
試合1カ月前から10日前までは普通に食べて飲み、通常のジムワークより少しハードに体力作りとスパーリングを行いました。
次第に食事は油物を避け野菜や果物中心とし、350mlのペットボトルをゆっくりと時間をかけて飲むようにしました。練習は通常のジムワークを汗をかける環境で行います。人にもよりますが私はスパーリングはなしにしました。
この時に楽しみにしていたのが棒アイス(半分に割れるかき氷)でした。冷たい氷を口に入れ、つかの間の幸せを感じたものです。
試合10日前からはさらに本格的な減量に突入。残りは約5キロとなりました。
試合2日前までに残り1.5キロに
5日前くらいからは疲労をぬくためジムワークを減らし、サウナスーツを着てひたすら汗をだす作業。
順調に減っていた体重ですが、試合2日前になると急に減らなくなりました。
残り1.5キロがなかなか減ってくれません。ひたすら汗を出す作業。
この時期になると食べ物は口にせずレモンを少し絞った白湯を飲みます。白湯の量は体重と相談しながら調節します。
1番辛かったのは家族との食事でした。事情を知らないばあちゃんからは「食べれ食べれ」と言われたのは辛かったですね。
苛立ちから漫画でしか見た事ない幻聴を聞いたりもしました。
計量パス後に感じた初めての感覚
その当時、ボクシングの計量は当日の朝(今は前日計量)で自宅の体重計で測りジムの計量器で測り、大丈夫なのを確認しましたが会場での計量は独特な雰囲気で何度も確認したのに不安な気持ちになりました。
その後、関係者からのOKを貰いやっと食事にありつけるのでした。
計量後、ぬるめの白湯を入れた水筒で少しずつ水分補給し、私はこれと決めていたほか弁のビーフ弁当と少量のうどん、小さなコップのコーラにしました。
そしてこれまた初めての感覚が。
うどんを一口食べた瞬間、体に染み込んでいくような力が湧いてくるような不思議な体験。
胃が驚かないように1時間かけてゆっくりと食べるのですが、全てが吸収されエネルギーに変わるような感覚。中々味わえない貴重な体験でした。
そして不思議な現象。2キロも食べてないのに体重が2キロ戻ってる不思議。
食事をした数時間後に体を動かすと減量の時とは違う体の軽さで、シャドーボクシングをやるとするどい音がします。
試合の方は何とか判定勝ち。減量の試練を乗り越えての勝ちにその喜びは格別でした。
この後にも何度か減量と試合を経験しましたが、初減量、初勝利は何事にもかえられない経験でした。
(文・ジャッカル雅登)