ジャイアント馬場、生涯一度の異種格闘技!ラジャ・ライオンは素人?

1970~80年代、新日本プロレスでは異種格闘技戦を行っていた。まさしく、第一期格闘技ブームである。

僕はプロレスマニア化して10年近く経つ。全日本プロレスも見ていたが、やはり僕の象徴はアントニオ猪木だった。猪木の異種格闘技戦は、リアルタイムでは見てはいなかったが、ビデオ等でほとんどの試合を見て、猪木の闘魂ファイトに陶酔していた。

格闘技の最強はプロレスであり、最強の名はアントニオ猪木以外には許されなかった。

異種格闘技戦といえばアントニオ猪木だが…

アントニオ猪木はプロレスの復権をかけて世界の強豪と戦った。ウイリアム・ルスカ、ウイーリー・ウイリアムス、モハメッド・アリなどの強者などだ。

一方、全日本プロレスではプロレスを極めて行った。他の格闘技には目をくれずに、NWA認定世界へビー級チャンピオンが全日本プロレス、ジャイアント馬場の象徴だ。たしかに、当時のNWAには世界的な権威があった。

そんな中、なんと全日本プロレスの総帥、ジャイアント馬場は生涯一度だけの究極の異種格闘技戦を行った。

当時の僕の感覚では、悪いが馬場には強さは全く感じられずに、クイズ番組やCMに登場するタレントのイメージだった。なぜ、ジャイアント馬場が異種格闘技戦を行うかも不明だった。新日本プロレスへの当てつけだったのか、馬場の人生最大の冒険だったのかもしれない。

ジャイアント馬場vsラジャ・ライオン

初夏の日本武道館、226センチの大巨人、ラジャ・ライオンが入場だ。観客と頭二つ以上高さが違うが、アンドレ・ザ・ジャイアントのような威圧するような貫禄は感じなかった。

謎の祈り?瞑想を行いリングインした。リング上で観客に手を上げた瞬間は3メートルはあるように見えた。異様な光景である。

一方、ジャイアント馬場の入場、若干、緊張気味に見えるも、リングインする瞬間、ニヤリとも取ることの出来る表情も見せた。馬場はいつもの、全日の象徴の赤のタイツ、一方、ラジャはペラペラしたサテンのような空手風のズボンに素足だ。あのズボンを見ると、学生時代の仮装行列で着させられたチャイナ服を思い出す。

そしてゴングが鳴った。馬場が手を差し出すと、ラジャはパチンと手を払った。ラジャは跳ねるような動作からスローモーな左右のキックを放つも、さっそく自ら尻もちを着く。

「なんだこれは?」と僕は苦笑した。会場からも失笑が漏れる。猪木のような緊張感は皆無であった。

ラジャはパキスタンの空手チャンピオンの触れ込みだったが、少なくとも空手のキックではない。初めて見る格闘技のキックだ。助走をつけて再度キックを放つが、足をとられまたも尻もちだ。

試合開始早々、22秒で2回の尻もち。究極の異種格闘技戦だ。ラジャは足を取られるのを警戒し、チョップ攻撃に切り替えてきた。しかしそのチョップも腰が引けている。

ペチペチチョップで馬場に腕を取られてしまい、ロープブレーク。その後また、ラジャの腰の引けたキック攻撃。キックが馬場のアゴにヒットするが、馬場にダメージはなく冷静だ。

ラジャが馬場にキックの乱れ撃ち!さすがにこめかみに喰らうと、馬場も頭をゆする。しかし、馬場には余裕も感じられ、ラジャのキック攻撃も手で冷静にカットしてラジャを倒す。

馬場は終始冷静でリング中央に立つ。そのまわりをあせるラジャが回っている。相変わらず、腰のひけた左右のキックを放つが、バランスを崩して転倒する。もう完全な素人だ。転倒したラジャを馬場はグラウンドに持ち込むがゴングに救われる。

2ラウンドが始まる。左右の腰抜けキックに、変な張り手をペチペチと繰り返す。正面蹴りも放つが、ただ、物をまたぐような動作で足を上げるだけだ。ラジャの変なチョップをかいくぐり馬場はバックをとる。場内からは大歓声だ。

強引にグラウンドに持ち込む。猪木なら原爆固めの体勢である。馬場の長い両足で腕をロックする。変形の十字固め!ラジャの腕は伸びていないように見えるが、なぜか苦悶の表情。自分の体重に負けているのか、身体が固いのかわからない。

そして…ギブアップした! 馬場の快勝である。ゴング直後、その試合を観戦していたタイガー・ジェット・シンが乱入した。馬場とラジャにちょっかいを出して逃げ去る。馬場とラジャは握手して健闘を称え合った。こうして、異種格闘技戦は幕を閉じた。結局、シンの乱入の意図もよくわからなかった。

ラジャ・ライオンは素人?カレーショップ店員説

格闘技としてのプロレス、それを新日本プロレスで見てきた。この試合はいったい何だったんだろう。

ラジャ・ライオンと言う格闘家は存在したのだろうか?噂によるとカレーショップの店員らしい。まぁ、それはそれでプロレス対店員の異業種格闘技戦なので良かったかもしれない。ある意味心に残った、一生忘れられない試合だ。

(文・GO)