MMA(総合格闘技)にはガードの高い選手と低い選手がいます。その違いは何でしょうか?
私自身、ガードはとても低いです。ガードを上げるのはレフェリーに試合続行か聞かれたときの意思表示と、ほんとに負けそうな時くらいでしょうか。
この低いガードというのは、高いガードの選手からしてみると少し憧れるところがあるようです。
あるときムエタイスタイルで元々ガードの高い選手が私の低いガードを見て、ガードを上げる必要性に疑問を持ってしまったことがありました。ずっとガードを上げているのは疲れるし、誰だって許されるならノーガードでボコボコ自由に殴りたいですよね。
実際のところガードは高ければ良い、低ければ良い、という問題ではなく、重要なのはファイトスタイルと合っているかどうか。ムエタイスタイルの彼にはノーガードで釣ってからカウンターを当てる方法を3つくらい紹介しました。でも、ムエタイスタイルの打撃メインで闘うならガードは下げるべきではないと思います。ファイトスタイルと合っていないからです。
では、低いガードが合っているファイトスタイルとはどのようなものでしょうか?
総合格闘技でガードが低い選手のファイトスタイル
これから殴り合うというのにガードが低い構えだと勘の鋭い天才肌に見えがちです。
実際には、ガードを上げないのは別に相手を舐めているわけでも超絶運動神経に自信があるというわけでもなくて、単にそういうファイトスタイルだからです。
これは私の個人的な意見なんですが、ガードの低い選手は2種類に分けられます。
1つは、ボクサーのナジーム・ハメドや、総合格闘家で剛柔流空手黒帯のロバート・ウィテカーのようなタイプ。
もう1つは、ボクサーのエドウィン・バレロや、キックボクサーの大月晴明のようなタイプ。
ポジショニングで闘うからパンチをもらわない大月晴明
ハメド・ウィテカータイプは基本的に持って生まれた運動能力を背景に変態的な挙動で攻撃を避けます。こちらは天才と言っていいでしょう。
次にバレロ・大月タイプですが、こちらはガードが低いという点は共通していても、前の2人との動きの違いは一目瞭然です。
エドウィン・バレロも大月晴明もボディワークをあまり使ってませんよね。彼らはポジショニングをディフェンスの要にしているのです。
私も後者のタイプで正直相手のパンチなんて見えません。でもなんでガードを上げずにいられるかというと、そもそもパンチの当たる角度に立たないようにしているからです。
そして、ガードを上げないメリットのひとつに、構えを崩す攻防をやらずに済むというのがあります。
ボクシングをやったことある人なら分かると思うんですが、素人がメチャクチャに振り回してくるパンチは非常に避けづらいです。
逆に考えると、普段のボクサーがやってる駆け引きというのはお互いにボクシングを知っているから成り立つものであるということ。
お互いにボクシングの文法に則って、こうきたらこう返すという攻防を行っているのです。だから高等なボクシング技術っていうのは相手がボクシングを知っていることが前提になります。
高度なボクシング技術がなければボクシングでは勝てません。ただ、そういう練習ばかりしていると、そのうち相手の構えを崩す技術ばかりに習熟していき、初めから構えない相手と戦う際に何をしていいかわからなくなると思うのです。
ガードを低くして戦うということは、ボクサーの高等技術のやり取りを避け、タイミングの取り合いやパンチの速さみたいなところでの勝負に持ち込めるという利点があります。
低いガードでパンチをもらわないコツ
ポジショニングでパンチを避けるには、解剖学的観点と心理学的観点が必要です。
まず対戦相手を骨格標本的に捉えます。人間の関節は曲がる方向にしか曲がらないのです。普段から骨として人間を見て安全な角度を探すようにしておきましょう。
次に相手の気持ちになって考えます。
この人のモチベーションは「絶対舐められたくない」だろうか、「練習の成果を見せてやる」だろうか、「殴るの大好き!」だろうか…というように。
その選手のモチベーションによって刺激に対する反応が変ってくるからです。
自分本位にならずに相手の気持ちを考えることが大事です。闘うという行為を相手がどう考えているかを知ることが出来れば、それを利用して動きを誘導できたり、カウンターを決められたりします。
ガードは上げなくても前手は上手に使う
ガードが低いからといって完全に無防備というわけではありません。ガードが低いのにパンチをもらわない選手は前手を上手に使っています。
単純に考えるなら、相手のストレートの軌道に自分の前手を置いておけばストレートは防げるわけです。前手を使って相手のパンチの軌道を塞ぐ工夫をするとディフェンスが上手くなります。
また、相手の顔の前に前手をかざせば相手の視界を遮ることができます。前手をヒラヒラさせておけば、相手は前手と闘い始めます。正攻法の選手ほど、「まずは構えを崩してから」と考え、前手を崩してから中に入ってこようとします。
ボクシングの攻防に慣れている人は構えを崩してから入るセオリーに慣れてしまっているので、まずは邪魔な前手を崩そうとする人が多いわけですね。こちらにしてみれば、相手が前手に気を取られている方が闘いやすくなります。
山本KIDがガードを変えた理由は?
新しいことを勉強するときに必要なのは大胆な仮説→検証→修正。物事を仮説を立てて検証するのが好きな私がたどり着いたのは自分の体で検証できる格闘技でした。
山本キッドがダウンタウンの番組に出たときに、「格闘家って結局バカ」と遠回しに揶揄されて、
「でも馬鹿じゃ勝てないよ」
とムッとした顔で言っていたことを思い出します。
小柄な山本キッドはちゃんと頭を使って戦法を考えていたのです。
全盛期の山本キッドを知る人なら、野生的、天才的といったイメージを彼に持っているかもしれません。こうしたイメージはどちらかというと初期のファイトスタイルによるものだと思います。
初期の山本キッドはガードが低く、素早く踏み込んでの一撃で相手を倒していました。2004年にキックボクサーの魔裟斗と相手の土俵であるK-1ルールで闘いますが、この後くらいからファイトスタイルが変わり、ムエタイスタイルを取り入れていったようです。
これは推測ですが、遠間から飛び込むバクチみたいなスタイルでは立ち技の専門家と戦うには不安だと思い、ムエタイの技術体系を取り入れたのだと思います。それに、膝も悪くしてたらしく、以前のような鋭い踏み込みが困難になっていたのかもしれません。
これなどは、ファイトスタイルによってガードの仕方も変わってくる、格闘家は自分のファイトスタイルを良く考えてガードの仕方を決めている、ことを示すエピソードではないでしょうか。
オーソドックスなガードを上げる構えで行き詰まっている人は、自分のファイトスタイルについて考え、低いガードを試してみるのもよいでしょう。
なお今回は低いガードについて取り上げましたが、構えを前提としたパンチの練習は打撃の基礎的なスキルを高めるのに役立ちます。
お互いにガードを上げたボクシング的な攻防の中でのポジショニングについてはこちらの記事で解説しています。
(文・千里三月記)