2015年UFCフェザー級タイトルマッチ。
王者ジョゼ・アルドvs挑戦者コナー・マクレガーによる1戦は当時のUFC最短記録となった試合であり、最も衝撃を与えた試合であったと言える。
コナー・マクレガーはUFC参戦以降、6連勝を記録していた。同階級チャンピオンのジョゼ・アルドに執拗なまでに挑発を繰り返した。
ジョゼ・アルドもWECの世界チャンピオンとしてUFCのフェザー級初代王者に君臨していた。圧倒的な打撃力とスピードを武器に約9年間負けなしを誇る絶対的な王者であった。
下馬評ではややアルド優勢ではあったものの、マクレガー程の打撃力に優れたファイターにアルドが揺るがされるのではないかとの幻想もあった。この1戦は、両者のそれからを大きく分けた試合でもあった。
ジョゼ・アルドvsコナー・マクレガー
入場からオーディエンスの歓声は最高潮に達していた。
アイルランドの国旗を掲げ入場してくるマクレガーに対し、冷静に入場するアルド。アルドの落ち着きぶりは恐ささえ感じさせる。
両者リング中央に向き合っても視線を合わせないアルドと、それを見つめるマクレガー。
試合開始後、両者近距離でステップワークを刻みながら対峙し合う。両者共に動体視力に優れており、前の手で距離を測っている。
マクレガーには得意とする左ストレートがあり、アルドにはボクシングと強烈なローキックで相手を削ることのできるテクニックがあった。
マクレガーが前足のフロントキックでアルドに触れた後、アルドは飛び込みによる左フック、右フックを放つ。
同時にマクレガーはステップバックから得意の左ストレートを放った。マクレガーのカウンターがモロに入る。
アルドはそのまま前のめりに崩れ落ち、マクレガーはさらなる打撃で鉄槌をくだす。ここでレフェリーが試合を止めた。試合開始13秒というUFC史上最短記録で幕を閉じた。
UFC史上最短記録13秒とマクレガーの人生
ジョゼ・アルドvsコナー・マクレガーの1戦は13秒という異例の速さで決着がついた。
しかしその13秒の背景には、マクレガーがスターになるまで全力で上り詰めてきたドラマが存在する。
UFC出場前、アイルランドの貧困地域で生活保護を受け取りながら生活をしていたマクレガー。
マクレガーのドキュメンタリー映画の”Nortrious”にも描かれているが、当時マクレガーは地元の配管工で働きながら、小さなアパートで恋人(現在の妻)と生活していた。
18歳の時にマクレガーはプロデビューを果たし、次々とタイトルを獲得していく。勝利の多くは打撃によるKOがほとんでであった。
幼少期にボクシングで国内ユース王者に輝いていることから、ボクシングの才能も伺える。やがてUFCから声がかかったマクレガーは参戦後も6連勝と好調でほとんどが打撃によるKOを誇っていた。
そして辿りついたアルド戦。この1戦でマクレガーの人生は大きく変わったと言えるだろう。
UFC2階級制覇、ボクシングルールでのフロイトメイウェザーJrとの世紀の1戦、格闘技界のみならず、自身がプロデュースするウィスキービジネスの成功。そして、ドキュメンタリー映画によって世界中が彼に興味を寄せた。
アイルランドの貧困層にいた彼は10年間で年収9900万ドル(約109億円)を稼ぐ、世界トップアスリートの中でも4位の存在になっていた。
カリスマ性と周囲を巻き込む力。マクレガーの持つ潜在能力は格闘技界のみならず、今後は世論さえも巻き込む程の勢力を持つのではないかと妄想が膨らむ。アルド戦での13秒間は彼が成るべくして成った運命だったのかもしれない。
(文・Totty)