2004年6月28日、ボクシングW世界タイトルマッチ。
ボクサーをしていた20代前半の頃、一緒に入門した先輩と奮発してリングサイドで観戦した試合です。
・WBC世界ミニマム級タイトルマッチ
王者 イーグル京和(角海老)VS 挑戦者 日本王者 小熊坂諭(陽光アダチ)
・WBC世界Sフライ級タイトルマッチ
王者 徳山昌守 (金沢)VS 挑戦者 川嶋勝重(大橋)
私の目当てはSフライ級の挑戦者、川嶋勝重でした。先輩はミニマム級タイトルマッチに注目していました。
私は視力低下で競技から離れる事になってましたがセミファイナルのミニマム級は同階級。
先輩も同階級で日本タイトルを狙える位置にいましたので偵察も兼ねて地方から横浜アリーナに初参戦。
偵察を兼ねたとはいえ観光もしっかり入れて、前日は中華街や飲み屋街にもいきボクシング談義に花が咲きました。技術論や各々のボクサーの特徴で大いに盛り上がりました。
徳山昌守VS川嶋勝重の下馬評は?
Sフライ級の徳山昌守は在日三世で足を使って遠い距離からストレートを伸ばすアウトボクサー。挑戦者の川嶋勝重は無骨で不器用なファイターで、ニックネームはラストサムライ。
2度目の対戦で前回は川嶋の判定負けでしたが今回の対戦はジムの会長である大橋秀行会長が、
「王者には致命的な弱点がある。今回は川嶋が1Rで勝つ!」
と宣言して盛り上げてました。
下馬評では王者、徳山有利。
ちなみにミニマム級王者はタイからの輸入ボクサーで安定した技術の持ち主。挑戦者の小熊坂は現役の日本王者でベルトを保持したままの変則的ボクサー。
下馬評では王者イーグルが有利でした。
確か6万円くらいのチケットだったので前座から見ることにし、先輩が戦うかも知れない相手イーグル、小熊坂の弱点や特徴を見つけることが目的でした。しかし、僕たちは観光気分のままビール片手に観戦していました。
試合会場とえいばデパートの特設会場や市民体育館といった地方の会場しか知らない僕たちは、横浜アリーナはあまりにも豪華で前座の4回戦の選手にも嫉妬したほどです。
セミファイナルのミニマム級世界戦が始まる前から徐々に人が増え、TV中継もあったので華々しい舞台に酔いも手伝ってミーハーな感覚でドキドキと宙に浮いてる感じでした。
王者 イーグル京和の凄さ
肝心の試合 ミニマム級は世界チャンピオンのイーグルの一方的な試合。
世界と日本とではこんな違うのかと思いしらされました。チャンピオンの立ち位置、パンチの正確さ、どこをとっても王者が一枚上手で小熊坂選手が何も出来ずに8RKO負けとなりました。
イーグル京和のボクシングを見せつけられ、先輩は悲壮な面持ちです。
ちょっと落ち込んだ先輩でしたが、まだ浮かれ気分の自分はビールを飲みメインの試合を楽しみしていました。
川嶋勝重の1ラウンドTKO勝ち?
ボクシングの世界戦は通常12Rで行います。
セミのミニマム級戦が少し早く終わったのでTV中継の都合で約45分の休憩に入りました。
隣の先輩は気を取り直してビールを飲み始めています。僕ももう一杯と販売所に向かい、買い物を済ませて席に戻り、今見たばかりの試合の感想やこれから始まるタイトルマッチについて熱く語りました。
途中、場内アナウンスが掛かり試合ムードになって行きました。
時計を見るともう少しで入場の時間です。
そのとき興奮で高鳴ってきた自分にちょっとした異変が…。
尿意を催したんです。
先輩に声をかけ急いでトイレに行きました。後方で見ている普段だったらトイレも近くにあるのでしょうが、今回はリングサイドなので勝手が違います。いつもよりも遠く、やっと着いた先には長蛇の列ができていました。
会場には入場のコール。
「早く早く!」と焦る自分。
開始ゴングが鳴ります。こちらも用事を済ませ、「間に合った~」と安堵の気持ちで席に向かうと、なにやら大歓声が上がっています。
走って会場に入った私が見たのは大型モニターに映る新チャンピオン川嶋勝重の喜ぶ姿。そう、大橋会長の予言が当たったのです。
高価なリングサイドで観戦のはずがモニターでの確認。それもリプレイ。
記録によれば、川嶋勝重の1分47秒TKO勝ちとのこと。何があるか分からないのがスポーツです。これぞボクシング!
会場でみたボクシングの中でも忘れられない一幕でした。
(文・ジャッカル雅登)