私が中学二年生の時、道院の社会人の先輩が三段の昇段試験を受けるため皆が協力して技の相手役になりました。
昇段試験は筆記試験と実技試験に分かれており、筆記試験では事前に課題がある作文とテストを受けます。その後に演武形式による実技試験を行います。
普段とは違う少林寺拳法の稽古
私が習っていた道院は、練習時間に比べて法話が長いため私達の技量は低いものでした。そのことを理解していた先生は、いつも話が長い法話をやめ、先輩の技術指導をしていました。
そんな日が続いたある日、先生が「みんな基礎の『突き』『蹴り』ができていない」とのことで、防具を使用していつもと異なる練習をしました。
片方が防具を付け、中腰で構え、相手が中段を狙いやすいようにする。もう片方がそれに向かって突きや蹴りをするというものです。
姉を10メートル蹴り飛ばした先生
普段は法話で稽古を終えることもあるので、私達の技量はそこまで高くありません。中段突き、中段蹴り、いつも基本稽古で行っていますが腰に力が入らずなかなかうまくいきません。
そこで先生がお手本を見せてくれることになったのですが、この時、先生の相手が私の姉でした。
姉が構えて準備できると先生が蹴りを放ちました。その瞬間、姉の体が3センチほど宙に浮いたのです。着地した姉は、蹴りの勢いを殺しきれず転がるように後退しました。
この当時、中学校の体育館を借りて稽古を行っていたのですが、体重約50キロあった姉を10メートルほど蹴り飛ばした先生は「六割の力でもこのように出せるのだ」と笑顔言いました。
この時私は初めて、先生の実力を垣間見て「先生に逆らってはいけない」と思ったことを今でも覚えています。
先生に逆らってはいけない!
ちなみに家に帰った後、蹴り飛ばされたことを姉に聞いてみたのですが「ものすごく怖かった。先生ってすごいね。逆らってはいけない!」と言いました。
このことがきっかけで、私達姉妹は稽古に対してより真剣に打ち込むようになりました。その後少しずつですが、私は「突き」、姉は「蹴り」が上手くなった。と先生に褒められるようになりました
この出来事のおかげで大事なことを学べました。それは「継続による力」です。
先生は少林寺拳法に出会い、人生をかけてやり続けています。その結果、一発の「蹴り」で人を宙に浮かせるほどの力を身に着けられました。
私も先生のもとで十年近く教わりました。そのため今でも先生に教わった、姿勢や「突き」の形などを体が覚えています。
またよく先生と会話した結果、考え方も影響され物事に対して冷静に判断でき、物事を深くとらえられるようになったのです。
何かを継続し、やり切ることは難しいと思います。しかし、何かをやり切ることは大きな経験になります。それは大きな壁にぶつかった際に大いに役に立つと考えています。
(文・ニコ)