大道塾(現 空道)の巨漢の先生に、一時期マンツーマンで指導していただいたことがあります。
大道塾の全国大会上位でも生徒が少なかった理由
この巨漢の先生は全盛期には全国大会でかなり上位に食い込んでいた猛者でした。
当時先生のところに生徒が私しかいなかったのは、彼が初心者に手加減できない不器用な人間だったからです。
体験で入ってきたヤンキー中学生をいきなりスパーリングにさそい、思いっきりローキックを入れてドヤ顔という大人気のなさ。生徒が集まらないのも仕方がないことでした。
私が入門するとすぐに入れ替わりでそれまで在籍していた先輩は辞めていきました。私も辞めたかったけれども、先生を一人にするのが偲びなく、仕方なく通っていたのが実情です。次の生徒が見つかるまでは…。
体格差のある相手と空道ルールでスパーリング
身長165センチメートル、体重66キロだった私の前に立ち塞がったのは、身長180センチ、体重100キロオーバーの巨漢。
場所は市営体育館。ルールは大道塾の空道ルール。防具があるとはいえ頭突きが解禁された、アグレッシブな空手ルールです。
固く構えたままカタカタと揺れた敵は、大柄ゆえに一見ゆっくりに見える動きで迫ってきました。
ぶぅーん。
と音を立てて迫る巨木、否、ミドルキック。
体重差40キロの私には、その攻撃をガードするという選択肢は用意されていませんでした。
軽トラにぶつかられたみたいにふき飛ぶ私。となりの面で練習していたママさんバレーのママたちがドン引きしています。
頭にかぶったスーパーセーブが自分の息で曇って前が見えない。しまった!ワックスを塗るのを忘れていた!思う間も無く、迫るパンチに我を忘れて組み付きますが、そこは圧倒的な体格差、巨木のような体はびくともしません。テイクダウンは絶望的です。
体格差のある相手に有効なローキック
練習相手は巨漢の先生だけという特殊な環境のおかげで、体格差のあるデカい相手と闘う方法を研究することができました。
とくに有効だと思ったのがローキックでした。しかし、普通に蹴ったのでは体重差がありすぎて全く効きません。
しかし、相手の強みというのは、ときには弱味にもなるもの。こうした発想は兵法の基本です。
体格差がある場合のローキックは、相手の外側に回って膝カックンのようにローを当てます。効かせるというよりも、崩すためのローキック。
確実に膝を狙い、自分の足の甲の部分を使って、ちょうど傘の持ち手の部分で引っ掛けるようなイメージで手前に引っ張ります。
すると相手は強制的にスクワットする形になります。体重の重い人は膝にかかる負担も大きいため、自重によるダメージの蓄積を狙うのが目的です。
回り込むステップワークの方法
体格差のある相手を崩すローキックでは、相手の横に回り込む必要があります。
相手の横に回る方法はいくつもありますが、ここでは使いやすいステップワークを紹介します。
送り足→ピボットで回り込む
フットワークには大きく分けて、送り足とピボットの2つがあります。
進行方向の足を前に送って、後ろ足をおっつけるのが送り足です。
片足を軸にコンパスのように回転するのがピボット。こちらはバスケットボールなどでよく使われるステップワークです。
相手を崩すローキックでは、送り足→ピボットの順にステップワークをすることで相手の側面から蹴ることが出来ます。
オーソドックス同士の場合は、相手の左足の外側に自分の左足を送り、その足を軸にピボットをすることで相手の背中側に回り込む動きになります。
ジャブの差し合いの距離から入る方法
送り足→ピボットのステップワークは、こちらから仕掛けると簡単に反応されてしまいます。
相手の動きを予測してタイミングよく使うのがポイントです。
相手の左ジャブを自分の左前手の前腕で外側に流しながら(外受け)、送り足→ピボットのステップワークを行います。
剣道の差し合いの要領で前腕を竹刀に見立て、ジャブにジャブを合わせる感じで入るとスピーディに入れます。ガードというよりも流す感じです。
相手の首相撲を誘う方法
背の高い相手からしてみたら、小さな相手が接近してきたら首を掴んで膝を入れたくなるものではないでしょうか。
この心理を逆手にとって横に回ります。
相手が首を取りに来たら、その肘を押し上げて、暖簾(のれん)をくぐる要領で横に回ります。このとき送り足→ピボットのステップワークを行います。
少し道着を緩めに着ておくと、相手の腕を潜る余地を作りやすくなります。
もしスパーリングではなく実践で、ということならローキックよりも関節蹴りの方がさらに有効です。ただし、相手を負傷させてしまう心配があるので練習で行ってはいけません。
(文・千里三月記)