高校剣道部の恩師…失っていた自信を取り戻す驚きの指導とは

私の恩師は、高校で剣道部の顧問を務めていた清水先生(仮名)。

清水先生のおかげで私の人生は大きく変わった。

あこがれの先生のいる高校へ

清水先生は剣道界では知られた人物だった。

高校時代に国民体育大会で優勝。その後、剣道で全国レベルの実力を持つ大学に進学し、関東大会個人優勝、全国大会個人準優勝の成績を残す。

教職に就いてからも、その強さは衰えを知らず、教職員大会などでも上位に入賞していた。

私は中学時代から先生の剣道に憧れていた。先生の剣道は美しく、まるで流れる川のように一切の無駄がなく、勇ましかった。

幸運なことに、先生が勤務している高校は私が住んでいる県だった。私は進路をその高校に決めた。

山奥で行われた奇抜な剣道修行

清水先生の指導でとても印象に残っていることがある。高校2年生の春だった。

その頃は練習試合が立て続けに入っており、試合三昧の日々を送っていた。私はとても不調で勝つことはおろか、思い切った試合をすることができなくなっていた。

自分に自信を持てず、負けるのが怖かった。スポーツや武道をやっていた人ならわかるかもしれないが、自信が無くなったら自分の力を出せなくなる。練習の時はとてもいい技が出せたり相手を打てたりするのだが、本番ではからきし駄目である。私は典型的な本番に弱いタイプだった。

すっかり自信失ってしまった私に、先生が声をかけた。

車に乗れ

頭の中では、どこかで怒られるのか、それとも気分転換にご飯に連れてってくれているのだろうか、などと考えを巡らせていた。

しかし、私の思惑は裏切られ、1時間以上も走っていた車は山奥を通過しようとしていた。先生がどこに行ってるのか見当もつかなかった。いきなり車が止まるとそこは木々が生い茂る森のなかであった。

ついてこい

そう言って先生は歩き出した。思考が停止していた私は恐る恐る先生の後を歩いた。5分ほど歩いた頃だろうか大きな渓谷が見えてきた。そして、そこを指差し先生はこう言った。

あそこでバンジージャンプをしてこい

なんとも奇想天外な指導だと思った。先生は、その弱い心、自信を持てない心はバンジージャンプをすれば治る。自分もそうやって治した。と言った。

言われるがままにバンジージャンプをした。実際にやってもると想像していたよりも何倍も怖かった。

そこでなにかが吹っ切れた。本当に、その日から試合を怖いと思わなくなったのだ。あの恐怖と比べたら試合の何が怖いのだ!そう思えるようになった。

卒業式で先生にもらった言葉は…

卒業式のときにも印象に残るエピソードがある。

クラスでの最後のホームルームを終え、続いて部活動のお別れ会をしていた。私は大学進学を選び、清水先生の母校である大学に行くことが決まっていた。

お別れ会は順調に進み、清水先生から卒業生全員に色紙が渡された。色紙にはたった2文字、

根気

と書かれていた。

いかにも先生らしいと思っていると、私だけ先生に呼ばれもう一枚の色紙をいただいた。

そこに書かれていた言葉は、

強い男になれ やさしい男になれ

涙が出てきた。私が小学校、中学校を卒業したとき、父母から貰った言葉だったからだ。

先生も同じように私のことを思っていてくれたのだ。そう思うと、余計に涙が止まらなかった。

今でも人生の恩師

高校を卒業したあとでも、先生とは連絡を続けていた。大学に入って、なにか挫折しそうなときには先生に相談していた。先生と話すとスッキリとした気持ちでまた明日から頑張ろうと思える。

一生の師とはきっと清水先生のような人のことをいうのだろう。これからの人生、辛いことや苦しいこともあっても、高校3年間で教えていただいたことを思い出し、いつか「強い、やさしい男」になりたい。

(文・ジメサギ)