昭和プロレスの三国時代。アントニオ猪木の新日本プロレス、ジャイアント馬場の全日本プロレス。この二つは全国中継があったため、知名度もあり、みんな知っていた。
そしてもう一つは国際プロレスだ。全国中継もなくローカルエリアでの放送。2団体に比べ絶対的な日本人エースがいなかった。マニアしかわからないようなエースがコロコロと変わっていた。
団体の崩壊するときのエースはラッシャー木村だ。僕自身、国際プロレスが崩壊して新日本プロレスに参戦してから国際プロレスの存在や、ラッシャー木村を知った。彼は悲運のエースだった。
今だから分かる国際プロレスの魅力
2020年春、世間ではコロナウイルスが蔓延して、外出する機会を減らしていた。僕はほとんど自宅でパソコンでのプロレス観戦に時間を取った。
そこでは以前から何気なく興味を持った国際プロレスの動画に没頭した。
所属選手は地味で無名だが、とても新鮮に感じた。今のプロレスにはない、試合の間があり呼吸や殺気、指使い、目線、緊張感など新日本プロレスや全日本プロレスに負けないものがあった。
またB級の雰囲気、薄暗さや、うさん臭さなど昭和のサーカス会場に近い。
ラッシャー木村vsレイ・キャンディ
会場内はかなり薄暗く感じる。新日本プロレスの照明に比べると半分以下である。
その分空席が目立たない。そんななか昭和らしいテーマソングで巨漢のレイ・キャンディが入場した。
レイ・キャンディは全日本プロレスでブッチャーとのタッグでベルトも保持したことがあるが、単独でシリーズのエース外国人としてはやや寂しい。あまりにも地味だ。
また、チャンピオンのラッシャー木村も地味だ。会場内の声援も聞こえるが、子供の観客は少なく、その多くは無料招待券での入場だろう。
地味だが新鮮さを感じさせる攻防
キャンデイの大きさが目立つ。おそらく160キロ以上はあると思われる。ゴングが鳴り木村との力比べで始まる。ただの巨漢と思ったが、アームロックで木村を封じ込める。
グラウンドの関節も見せ意外な展開だ。じわじわとしたキャンデイの攻撃に木村も少々エキサイト気味。やっと試合が動き出し、キャンデイの二階からのヘッドバット攻撃、木村は得意のチョップて応戦するも、会場はあまり盛り上がらない。
相変わらず、暗い単調な試合が続く。キャンデイがコーナーに木村を振る。今のプロレスなら、そのあとに釘付けラリアットやタックルなどの攻撃もあるが、コーナーに振っただけで何もしない。
両者の攻撃は本当に単調だ。キック、パンチ、タックル、チョップ、ヘッドバットの打撃を繰り返す。何がおもしろいんだろうという展開だが、とても新鮮に感じてしまう。
50歳を過ぎてようやく理解できた
豪華なバイキング料理が新日本プロレスなら、国際プロレスの末期は精進料理のようだ。僕も50歳を過ぎてこの精進料理の味がわかるようになってきたようだ。
お約束の場外乱闘、そしてキャンデイの凶器攻撃。なんと、この凶器がマイク。のちにマイクパホーマンスで有名になる木村だが、ここでのマイク攻撃には苦笑してしまった。
試合後半はキャンディも流血、巨漢のキャンディをブレーンバスター、ドロップキック、クロスチョップで攻撃し、最後はグラウンドの卍固めでギブアップを取った木村。
国際プロレス最後のTV中継
この試合は東京12チャンネルの最後の中継試合だった。
この試合から5か月後、国際プロレスは崩壊した。いったい木村はどんな気持ちでリングに上がっていたんだろう。たぶん給料ももらってはいないのでは。
悲劇のエース、チャンピオンの木村の表情は本当に単調で寂しい。また、派手なパフォーマンスもない。またそれが、ラッシャー木村らしいかもしれないが。
薄味の国際プロレスは50歳を過ぎた僕には、目にも胃にも優しい。そんな気がする。
(文・GO)